まっさらの姫君 | ナノ
ロ決意と表れ


「…あのですね、すごいですね、ポケモンの群れ!」
「うん!まるでポケモンだけのダンスチームみたいだよねえ!」
 私が5番道路に着いた時には、もう二人とも集まっていた。二人に気づかれない間に、私は、群れで野生ポケモンが出てくる…?という聞きなれない単語に首を傾げている。
「もう!ティエルノさん本当にダンスのことばっかりですね」
「うん!ポケモン勝負でも動きを見ちゃうもんねえ、ついつい踊っちゃうもんねえ。つるぎのまいとかいいよねえ…だから勝てないんだけど」
 ふと、ティエルノ君がこちらに気づいた。満面の笑みでモンスターボールを掲げて、ティエルノ君は言う。
「あっナナちゃん!なにか面白いムーブの技ってある?ポケモン勝負で見せて!」
 そして、ティエルノ君とのバトルが始まった。

 相手はヘイガニ。こちらはリオルのミサオだ。確かにさっき言っていた通り、ティエルノ君はつるぎのまいを何度も何度も繰り返している。
 これなら私にも勝てるかも…と思い始めた時だった。
「危ないっ!!」
 つるぎのまいを限界まで舞ったヘイガニのはさむ攻撃が、目標をそれて、私の元へ飛んできたのだ。
 衝撃に備えて、目を瞑る。腕の一本くらいは、切り落とされてしまうかもしれない。
 …しかし、予期していた痛みは一向に襲ってこない。恐る恐る目を開けると、目の前に、頼もしい背中があった。
「ルカリオ…あなた、ミサオなの!?」
 ルカリオになったミサオは頷くと、ヘイガニのハサミを振り飛ばす。道端の木に頭をぶつけたヘイガニは、そのまま戦闘不能になった。
「すごいですよ!ナナシさんを助けるために進化するなんて…!」
「うん、僕、進化の瞬間って初めて見たなあ!踊りとは違うけど、胸が熱くなる感じだったよ!」
 ルカリオになったミサオはこちらに向き直ると、私よりも高くなった身長で、心配そうに私の顔を伺う。私に怪我がないことを確かめると、ミサオは安心したように私に抱きついた。
「ミサオ、守ってくれてありがとうね…」
「くうん」
 甘えた声でひと鳴きしたミサオは、もしかしたらコルニさんのルカリオに対抗意識を燃やしていたのかもしれない。そう思うと可愛くて愛おしくて、私もルカリオを抱き締め返す。

「ナナシさん…ではなくてナナちゃんさん」
「うん?」
 ミサオを褒めまくっていると、トロバ君に声をかけられる。
「ティエルノさん、本当にダンスのことばっかりなんです。群れで飛び出したポケモンも、ずっと見つめていたりして…」
「だってトロバっち!世界一のポケモンダンスが自分の夢だからねえ」
 私にとっては、なんだかんだでこの二人も、良いコンビな気がするのだ。
「ぼくは踊るために生まれて、踊ったまま一生を終えるよ」
「そういうところ、なんだかティエルノさんらしくていいです」
 トロバ君はティエルノ君の発言に笑う。私も、その方がティエルノ君らしくて良いと思った。
「ぼくもそれぐらいの気持ちでポケモン図鑑がんばります!マジメマジメでいいんです!」
「私、トロバ君のそういうところも、トロバ君らしくて素敵だと思うよ」
 私がそう言うと、トロバ君は頬を微かに染めてはにかんだ。
「あのですね、ナナちゃんさん…あまいミツをもらってください。…あまいミツを使うとポケモンが群れで出てくることもあるようです」
 それがさっきの、野生ポケモンの群れの話なのか。
「複数のポケモンを同時に攻撃できる技を使えればいいんですけど…」
 確かアサギが範囲攻撃技を持っていたはずだから、後で試してみよう。
「ありがとう、もらっておくね。二人とも、良い旅を」
私が笑いかけると、二人は笑い返して手を振ってくれた。

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