まっさらの姫君 | ナノ
ロライバル


 僕の名前はミサオ。
 群れの中ではじき出されていた…いわゆる自然淘汰というものに苛まれていたところを、ご主人様であるナナシさんに助けてもらったリオルだ。
 今度はナナシさんのことを僕が守りたい、その一心で修行を続けている身である。

 ナナシさんのお友だちであるカルムさんという少年と別れてから、ナナシさんの持っている何やら難しそうな機械が、音を立てて鳴り出した。ナナシさんは、それをいとも簡単そうに操作する。
 すると、こちらもナナシさんのお友だちであるふくよかな少年…ティエルノさんが、まるでそこにいるかのように立体的に映し出された。
「ねえねえ、今5番道路にいるんだ。なんかね、野生のポケモンがすごいんだよ、とにかくすごいから、早く見においでよ!」
 要点のつかめない説明を聞きながらも苦笑いを浮かべるナナシさんは、本当に優しい人だと思う。

 ナナシさんは、ティエルノさんの報告通り、5番道路に向かうことにしたらしい。
 以前はあんなにためらっていたゲートも、今のナナシさんは自信たっぷりに超えてゆく。
 ゲートを越えたところで、ナナシさんと同じくらいの背丈のポケモンとぶつかる衝撃が、ボールまで響いてきた。
「くうん!」
「あっ、ちょっと、大丈夫でした!?」
 見ると、そこにはルカリオが…そう、僕の進化系である憧れのルカリオが、立っていた。
 慌てて追いかけてきたローラースケートの知らない女性が、ナナシさんの心配をする。
「ルカリオ同士で特訓してたら急に…ねえルカリオ、あなたどうしたの?この人から、気になる波動を感じた?」
「くうん!」
 元気よく返事をするルカリオは、どうやらナナシさんの出す波動が気に入ったらしい。くるくるとナナシさんの周りを回っては、匂いを嗅いだり尻尾を振ったりと忙しい。…ナナシさんは、僕のご主人様なのに。
「ルカリオったら、なんだかあなたが気に入ったみたい」
「あ、ありがとう」
 ルカリオの露骨な愛情表現を見て苦笑いを浮かべたナナシさんは、ちらっと僕のボールに目をやった。その意味は、僕には分からなかった。
「ルカリオって、相手が出す波動を読みとれるポケモンなのよ!もう一匹のルカリオといつも張り合ってるから、強そうなトレーナーを探してるのかも…」
 女性はそう言うと、はっと我に返ったように手を口に当てた。
「あっごめん、自己紹介してなかったね!あたし、シャラシティのジムリーダー、コルニ!」
 ナナシさんは自分と同じくらいの歳の女性がジムリーダーであったことに驚いたようで、可愛らしい目をまん丸く見開いた。
「あなたがバッジを集めていたら、いつか戦えるよね!その時を楽しみにしてる!じゃーねー!」
 嵐のように去っていったコルニさんに、ナナシさんは目をぱちくりとさせて肩を落とした。
「ルカリオって確か…リオルのなつき進化の姿だったよね」
 心配そうに潤むナナシさんの瞳に、僕は慌ててボールを飛び出した。
「っミサオ!?」
「くうん、くうん!」
 僕の言葉は、決してナナシさんに届くことはないけれど。せめて、今でも十分に大好きだということだけは、伝わってほしくて。
「ミサオ…ありがとうね」
 ナナシさんは柔らかく微笑むと、僕の頭を撫でてくれた。
「コルニさんにまた会う頃には…あなたもルカリオになっているのかな?そうなら、いいな」
 ナナシさんの言葉に、僕は修行の意志を再度固め直した。

 僕のナナシさんへの愛情は、決してコルニさんのルカリオにも、負けやしない。負けるはずがないんだ。

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