まっさらの姫君 | ナノ
ロ違和感


「ではじきに会えるのですね」
「ええ」
 階下に着くと、赤い特徴的な髪の男と、ジーナさんが話し込んでいた。何を話しているのだろう?
「博士に選ばれた子どもたち…どんな可能性を秘めているのか」
「はい、あちらに」
 ジーナさんは、話の途中で突然こちらを手で指した。
「彼女はナナシさん。ちょっと、こっちにいらして」
「ほう、きみが博士からポケモン図鑑を…素晴らしい!」
 赤髪の男性はうむうむと感心するように何度も頷くと、私を褒め称える。褒められることなど何もしていない私は、ただうろたえるのみである。
「実に素晴らしいことだよ。選ばれし者だね」
「そんな、私はたまたま…」
「運も実力だよ。私はフラダリ。輝かしい未来のため、ポケモンのことを究めようと、プラターヌ博士からいろいろ教わっています」
 フラダリさんは自己紹介すると、丁寧に頭を下げる。そして私の持っているホロキャスターに目を止めると、嬉しそうにぱっと顔を輝かせた。
「おお!きみが持っているそれはホロキャスター!情報は大事ですからね、きみも活用してください」
「は、はい!」
 フラダリさんの勢いに気圧されて思わず頷いてしまったが、私はカロスに来てから一度も、残念ながら、ホロキャスターメールを受信したことがない。友達がいないわけではないのだ…うん。
「いいかね!この世界はもっとよくならないといけない。そのために、選ばれた人間とポケモンは、世界をよりよくするために努力せねばならないのです」
 フラダリさんの言うことはとても正しく聞こえる…のに、なんだか違和感を覚えるのはどうしてなのだろうか。息が詰まる。フラダリさんは、自分で自分を追い詰めているみたいだ。
「では、プラターヌ博士によろしく伝えておいてください。我は求めん!さらなる美しい世界を!」
 フラダリさんはそう締めくくると、研究所を出て行った。ジーナさんは私の隣でやはり上品な動きで首を傾げると、呟く。
「それにしても…フラダリさんの望む美しい世界って、どんな世界かしら?」
 なんとなく、なんとなくだけど…フラダリさんの言う美しい世界とは、とても脆くて、危険を孕んでいるような気がする。
「この地方にはいろんなポケモンがいるの。ポケモン図鑑が、それを知るためのきっかけになるとうれしいわね」
 ジーナさんの言葉に頷くと、私はぎゅっとポケモン図鑑を握りしめた。

 がしゃん、とエレベーターが着く音がした。振り返ると、カルム君が駆け寄ってくる。
「話したいことがある。カフェ・ソレイユで待っているよ、お隣さん」
 カルム君はそれだけを私に伝えると、一足先にカフェに向かったのか、研究所を出て行った。
「カルムさんの話って一体何でしょう?」
「秘密っぽいけど、何だろうね…?気になるけれど、知らないふりをしておいた方が良さそうだねえ」
 ティエルノ君は、意外と察しがいいらしい。後ろで二人が話していることには、私も気づかないふりをする。約束の場所へ向かうために、私も研究所を後にした。

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