まっさらの姫君 | ナノ
ロ本当に大事なもの


 トロバ君、ティエルノ君が合流して、メイスイタウンから旅立った五人の子どもたちが揃った。

「それではあらためてみんなに!最高のトレーナーを目指し、ポケモンとの旅を楽しんでよ!」

 プラターヌ博士は舞台俳優のようにばっと手を広げて、大仰に言う。
「そしてカロス地方のポケモン最大の謎、新たな進化の可能性!メガシンカの秘密を解き明かそう」
 私がアサギとともに受け取ったメガストーンを指差して、博士は話を続ける。
「そう!先ほど渡したメガストーンは、戦いでの新たな姿、メガシンカの秘密の手がかりなんだよ!」
 妙なあたたかみを感じるメガストーンを握りしめてみると、不思議とアサギと心が通じ合ったような気持ちになった。
 私が記憶を失う前に憧れていたあの人…赤い後ろ姿に追いつけそうな気がして、鼓動がどきどきと速まってくる。
「メガシンカについて調べるならコボクタウンはどうかな?あそこは歴史のある町、何かヒントがあるかもしれないね」
 プラターヌ博士はタウンマップを取り出して、私たち五人に道を示してくれた。
「いいかい?ポケモン図鑑を埋めるためにいろいろな場所に行けば、さまざまな生き方のポケモン、さまざまな考えの人とで会うことになるだろう!」
 プラターヌ博士は続ける。

「時としてぶつかる生き方、考え方をまずは受け入れ、なにが大事かを考えることで、キミたちの世界は広がるんだ!」

「…どれだけ人と違うかが、オレの価値だと思う」
カルム君が、隣で小さく呟く。きっと、ベテランのお父さんお母さんと、何度も比較されてきたんだろうな。ベテランの子だから、と付いて回るレッテルは、本人にとってどれだけ重苦しいものだったかは、私には計り知れないけれど。
「カルム君」
「うん?なんだいお隣さん」
「カルム君は、今でも十分に、代わりのいないカルム君だと私は思う…よ」
 うまく伝えられないもどかしさに、私は唇を噛む。カルム君はそんな私を待て、小さくふふっと笑った。
「ありがとう、お隣さん」

 それにしても、私の大事なもの、かぁ…
 私はなぜか、おかあさんでも出会ったポケモンたちでもなく、何の記憶も残っていない、鞄の中の金色の石のことを思っていた。

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