まっさらの姫君 | ナノ
ロ優しい気持ち


 僕はラルトスの、リンダ。リンダとは、ご主人様がさっき辞書とにらめっこをしてようやくつけてくれた、大切な大切な名前だ。
 そのご主人様は今、難しい漢字をノートに書きつける途中で、机に突っ伏して寝てしまっている。
『だから、絶対ご主人にはこのクールなピンズの方が似合うって!』
『何言ってんのよ、ナナシにはこっちの可憐な花に決まってるじゃない?!』
 その隣では、ご主人様の帽子にいろいろなアクセサリーを試着しながら、テールナーのソルとピカチュウのテスラが揉めていた。
『二人とも、もうやめようよぉ…ナナシさんにはなんでも似合うんだから』
 泣きそうな顔で、リオルのミサオが言う。
『あんたは黙ってなさいよこのポンコツリオル!』
『大体なんだよミサオったら自分だけいいとこ取りの意見出して!』
『ひえぇ…ごめんなさいぃ』
 まったく、ご主人様の明るい気持ちにつられてやってきたとは言え、とんでもなく賑やかなところにやってきてしまったものだ。
 喧騒にも負けじと、ご主人様は眠り続けている。無理もない。ソルが進化する前からずっと、草むらの陰から見守っていたけれど、走り通しで疲れただろうから。
 後ろでギャーギャー騒ぐご主人様のポケモンたちは一旦無視して、僕はご主人様にブランケットを運んでくる。…といっても、引きずってくるような形だが。
『あ、手伝うわ!』
『僕も!』
『やらせて!』
 …みんな、ただただ純粋に、ご主人様のことが好きなだけなのだ。
 4匹で協力して、ご主人様にブランケットをかけてあげる。
 すやすやと寝息を立てるご主人様に安心した僕は、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
『あの鞄の中…何が入っているか、知っている子はいないかい?』
『私たちが怪我をした時のための、きずぐすりがたくさん入っているわ!』
 だってナナシは優しいもの!と胸を張るテスラに、そうじゃなくて…と僕は言い直す。
『例えば、ポケモンみたいな、生き物…とか』
『そんなの入ってるわけないだろ、ポケモンはここにいるみんなで全員さ!』
 ソルの言うことに、嘘は混じっていない。超能力を使わなくても、素直なソルの言うことなら、信用できた。

 でも、しかし、じゃあ、この、生き物のあたたかみは、見守るような優しいエネルギーは、なんなんだ?

 鞄の中から、金色が、ちらちらと光をこぼしていた。

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