まっさらの姫君 | ナノ
ロ守るべきもの


 私は自分の気持ちに整理をつけるため、ポケモン育成…いわば修行のようなもののために、22番道路を訪れていた。
 野生のポケモンと切磋琢磨しながらひたすらにポケモンたちとの連携プレーを練習していると、ふと視界の隅に影が動いた。
 新しい野生のポケモンか、と思って警戒するも、野生のポケモン…であることはあるのだけれど、どうやら何か様子が違うようだった。見るとそのポケモンはボロボロで、今にも呼吸を止めてしまいそうなほどに弱り切っていた。
「…!ソル、テスラ、行くよ!!」
 私は鞄の中のバスタオルでそのポケモンをくるむと、手持ちのポケモンたちと一緒に走ってポケモンセンターを目指した。

「これは…自然淘汰でしょうね。この子は、見たところ特に能力値が弱いようです。だから群から虐められ、追い出されたのでしょう」
 ジョーイさんは静かに、あくまでも仕事の一環として、私に事の次第を伝える。私はその自然淘汰とやらに怒りながらもなんとか飲み下して、先ほどのポケモン…リオルの様子を聞いた。
「それでっ、容体は…!?」
「ナナシさんが早くに連れてきてくれたおかげで、命に別状はありませんよ」
「よかった…」
 ジョーイさんは困った顔をすると、「まだ問題は残っているのです」と続けた。
「能力値ゆえに、貰い手がつきそうにないのです…ポケモンセンターで保護できる期間は、決まっています。ですから、それを超えたら…」
 人間の匂いがついてさらに群から敬遠される状態で、野生に返さなければなりませんね。そのジョーイさんの言葉は、酷ではあったけれど、そうしたくはないという強い気持ちが滲み出てもいたので、怒るわけにもいかなかった。私は、やるせない気持ちを抱えたまま、俯く。
 解決策は、一つしかなかった。これが正しい選択肢なのかどうかなんて、分からないけれど。

「私が…引き取ります」

 ジョーイさんは一瞬驚いた顔をした後、本当に、本当に、嬉しそうな顔で笑ってくれた。
「よかった…これでこの子も、本当に安心ですね」
 タオルケットに包まれて眠るリオルを引き取って、私はポケモンセンターを後にした。

 このリオルは、個体値というものが低いらしい。だけれどもリオルと暮らすようになってからは、よくよく見れば、変わる事のない芯が通った性格をしていることに気がついた。
 私はまた、辞書をめくる。

「ミサオ。…あなたの名前は、ミサオよ」

 そう告げた時、ミサオはとびっきり嬉しそうに、ワオン!と鳴いたのだ。
 個体値がなんだ。強さがなんだ。私は、この子を、守ると決めたのだ。この子が、自分の意志を強く堅く守り続ける限り。

 この時はまだ、私がミサオに守られる側になるなんてことは、想像だにしていなかった。

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