泣きながら、私は噴水広場の共有ベンチに腰掛けた。私は自分がどうして泣いているのかが分からなかった。 憧れの人、「レッドさん」。そして、「ロケット団」。この二つの単語が結びついた時、私はどうなってしまうのだろう。不安で顔を上げることもできずに、私はただ俯いていた。 いつのまにか、あたりは霧のような雨に包まれていた。衣服が徐々に皮膚に張り付き、濡れそぼっていく。 「風邪を引くよ」 そっと、俯いた私の膝元に影が落ちた。見上げると、カルム君が、自分が濡れるのも厭わずに、私に傘を差し出してくれていた。 「カルム君、私、私…っ」 「その様子は、思い出してしまったのかな」 「カルム君は、私に記憶がないこと、知ってたの…?」 私の問いかけに、カルム君は小さく頷く。 なんで、と口をつきかけたけれども、カルム君にはカルム君なりの事情があったのだろうから、責めても仕方がない。それに、それならば、これまでのカルム君の言動にも、合点が行く。 「カルム君は、どこまで、知ってるの…」 「それは…キミが自然に思い出すまで、教えられない。これは、キミのおかあさんとの、約束でもあるんだ」 ぐすん、と鼻を鳴らせば、カルム君は鞄からティッシュを取り出して無理やり私の鼻に押し当てる。仕方がなく受け取って鼻をかむ。 「教えられなくてごめん。オレも、苦しんでるキミを見るのは辛いよ。…だからこそ、なおさら、今は教えられない」 苦しむ?今より、ずっと? 想像した私は、くらりと目眩に襲われて、ベンチに座り込んだまま突っ伏した。 「大丈夫、キミは大切なものをちゃんと持ってるから。…そのことを思い出せたら、大丈夫さ」 わけもわからずに泣き続ける私の背を、カルム君はただただ、さすってくれていた。 鞄の中で、お守り代わりの石があたたかく光っていたことに、俯いたままの私は気づけなかった。 <* | #> しおり+ もどる |