ティエルノ君にポケモンセンターの使い方を教わった後、私はようやく到着したハクダンシティを観光していた。 ロゼリアを模した大きな噴水に見惚れながら、色とりどりの花に囲まれた街並みを歩く。 街を一周した頃、ふとポケモンセンターの隣の建物に、服の看板が提げられているのを見つける。 「ブティック…?」 ふらりと足を運んだ先には、お洒落な帽子がたくさん並んでいた。その中でも目を引かれたのは、赤くてモンスターボールの柄の入った、シンプルなキャップ。 可愛いもの好きな私が、どうしてスポーティなそれに惹かれたのかは分からない。けれども、身につけるわけではないのに、どうしてもそれが欲しいと思ってしまった。 「こ、これ…その、ください」 身につけるわけではないのに、という罪悪感から、おずおずと店員さんに声をかけると、店員さんは目を輝かせて言った。 「もしかして、あなたもレッドさんのファンなんですかっ!?」 れっど、さん。その言葉には、確かに聞き覚えがあった。 そこからの会話は、よく覚えていない。ああ、とか、はい、とか、うつろな返事をしていたような気がする。 頭の中で反芻されていた単語は、「レッドさん」、ただ一つだけだった。 私の焦がれていた人。私の唯一の心の拠り所だった人。どうして、忘れていたんだろう。こんなにも、強い気持ちだったのに。 「すごいですよね、レッドさんは!ロケット団を一人で壊滅させてしまうなんて!」 ロケット団、という単語が出てきた時には、もう私のキャパシティは限界を迎えていた。購入して袋に入れてもらった帽子を引ったくるように受け取ると、私はハクダンシティの噴水広場に駆け出していた。 風が冷たいな、と思い頬に手を当ててみると、私は、涙を流していた。 <* | #> しおり+ もどる |