「みんな揃ったね。ハクダンシティに行こう!」 サナちゃんの明るい号令とともに、五人揃って森の外へと踏み出す。 あの後、森の出口で再び出会ったときに、「一番乗りはキミか。すごい才能の持ち主がお隣さんになったようだね」と何事もなかったかのように話しかけてきたカルム君に驚いて、あの発言の真意は聞けずにいた。 カルム君に手伝ってもらって捕まえたピカチュウの名前は、また辞書を引いた結果、電気技師の名前からとって、テスラ、にすることにした。 「みんなはこの後どうするの?」 「図鑑を埋めたい、です!」 「ポケモンたちのダンスチームを作りたいなあ」 各々の目的に従って目的地が分かれそうな中、私だけが、やりたいことを見つけられないでいる。 「…オレは、各地のジムリーダーに挑戦するよ」 カルム君の言葉に、一瞬場が静まり返る。 「ジムリーダーって…あの、ジムリーダーですよね?」 おっかなびっくりといった様子で、トロバ君が問いかける。それにカルム君は苦笑しながら、「他にどのジムリーダーがいるんだ」と返している。 「いいかい?ポケモントレーナーは、ジムリーダーと戦うことで、自分の実力を確かめるんだ」 それはなんとなくの記憶だけれど、薄っすらと残っていた。ジムバッジという形で授けられる強さの証…それを八つ集めれば、ポケモンリーグに挑戦できるのだったか。リーグのことを考えると、やけに心が騒がしくなる。記憶を取り戻す鍵が、ここに、あるのかもしれない。 「…あのっ!私も、ジム巡り、するよ…!」 カルム君は少し驚いた顔をした後、なぜか納得したような表情で頷く。サナちゃんは隣であたふたと驚いているし、他の二人も唖然とした表情のまま私を見ている。 ジム巡りが簡単な道のりではないことくらい、分かっている。それでも、私は、今は夢の中にしか存在しない憧れのだれかを、現実にしたかったのだ。 「…分かった、応援するよ。それじゃあ、キミにはこれを渡そう。みんなにもね」 カルム君は、もう一度頷くと、探検心得と書かれた冊子をみんなに配って回った。 「何か分からないことがあれば、これを使いなよ」 それじゃあオレは行くよ、と言って背中を向けた後、カルム君は一度だけ振り向いた。その瞳は真っ直ぐに私に向けられていて…寂しさのような、悲しさのような、不安のような、そんな感情が入り乱れた眼差しだった。 <* | #> しおり+ もどる |