ハクダンの森に踏み込んだ途端、落ちた草木を踏み分けて後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえた。 振り返ってみると、何かを企んでいるような表情のサナちゃんがいた。…可愛い。 「ねえ、一緒に行ってもいい?一緒だと、なんだかわくわくしそうなんだもん!」 森の中では私のポケモンを元気にしてくれるというサナちゃんに、断る理由があるはずがなく、私は二つ返事で了承した。 ただでさえ薄暗い森の中、道すらも分からずに、少し心細い思いをしていたのだ。いつだって明るいサナちゃんが一緒に来てくれるなら、こんなにも心強いことはない。 森を抜ける途中で、メイスイタウンの四人ともすれ違った。 カルム君は「この森を抜けるくらい、オレには朝飯前だね」と言いながら私とサナちゃんを取り残して駆けて行ったし、トロバ君は「まずは観察!」と旅そっちのけでポケモンの観察を始めていたし、ティエルノ君に至っては何故か踊りながら「たんぱんクンに挑まれたポケモン勝負受けてたつよお」と勝負を挑まれていた。 …みんなそれぞれに、大変そうだ。 私は、襲いかかってくる野生の虫ポケモンたちをソルのひのこで振り払って、なんとかサナちゃんと一緒に森を進み続けていた。 すると、前方に、見慣れた青色のパーカーが見えた。 「あれ、カルム君?先に行ったんじゃ」 「モンスターボール、いる?ほら」 半ば押し付けられるような形で、カルム君からモンスターボールを受け取る。こんな暗い中で、私のことを、待っていて、くれたのかな。そう考えると、胸がほっとあたたかくなるような心地だった。 カルム君は、私にモンスターボールを渡すと、森の出口へと駆けていった。 「カルムったら、ナナちゃんに気があったりして〜!」 「さ、サナちゃん…そんなこと言ったら、カルム君に失礼だよっ」 いかにも若い子らしい話題に、私は頬が熱くなるのを感じる。 「か、カルム君とは…そんなんじゃないって…」 実際、どうしてかカルム君だけは、私のことを頑なに名前で呼んでくれないのだ。好かれているということは、ないだろう。 さっきは待ってくれていたようだし、特別扱いされているのはひしひしと感じるのだが…その理由がわからない。 …私が特別扱いされる理由なんて、一つしか浮かばないのだが、まさかね。 「そーお?あたしはお似合いだと思うけどなぁ」 しつこいサナちゃんに軽くチョップを入れると、サナちゃんは可愛らしい笑顔で、エヘヘごめんね!と謝ってきた。 <* | #> しおり+ もどる |