まっさらの姫君 | ナノ
ロ教えて


カルム君は、私の足取りを気にしながら、逐一冒険のノウハウなどを聞かせつつ付き添ってくれた。私のことをお隣さん呼ばわりするわりに、過保護なのは一体どうしてなんだろうか。

 メイスイタウンを超えて、ハクダンシティへと向かう道すがらでのこと。
 草むらの前でサナちゃんの姿を見つけて、カルム君が足を止める。
「今からポケモン捕まえるから、しっかり見てなよ!」
 カルム君はモンスターボールを取り出すと、私とサナちゃんを振り返る。どうやら、ポケモン初心者の私たちに、ポケモンの捕まえ方をレクチャーしてくれるつもりらしい。
「ポケモンは、弱らせてから捕まえるといい」
 そう言いながら、カルム君はヤヤコマに指示を出し、俊敏な動きのヤヤコマが、野生ポケモンの体力を奪っていく。
「カルムのパパもママも、すごーいトレーナーなの!だからポケモンの捕まえ方や勝負のこと詳しいんだって!」
 サナちゃんが、隣で自分のことのようにはしゃぎながら言う。私のパパとママは…一体どんな人だったんだろうか。結局、父親不在の理由を聞かないまま、旅に出てきてしまった。頑なに思い出せないそれは、おそらく記憶喪失の中枢と関わりがあるのだろう。小さく首を振って、考えても仕方のないことだ、と思考を吹き飛ばす。
「両親の話されてもオレには関係ないけどね」
 そう言ったカルム君の手の中には、もう先ほどの野生ポケモンが捕獲されたボールがあった。涼しげな顔をしてそれをこなしてしまう彼は、なるほど、エリートの風格があった。
「うわぁ、ポケモンがボールの中に!?」
「おいおいサナ、キミのハリマロンだってモンスターボールに入ってるだろ」
 呆れたようにサナちゃんに笑いかけるカルム君に、私はなんと言えばいいか分からないようなもやもやとした感情に襲われた。サナちゃんのことは、名前で呼ぶんだ。言うなれば、妬きもち?そんな間柄ではないのに。そもそも、私は引っ越してきたばかりなんだから、当然なのに。
「ほら、キミたちにもモンスターボール分けてあげるよ。この辺りのポケモンなら、ボールを投げればまず捕まるさ」
「うん!あたしかわいいポケモンと出会ったらボールをどんどん投げておともだちになっちゃお!」
 サナちゃんが飛び跳ねながら駆けて行った後には、私とカルム君が残された。
「…お隣さん?気分優れないみたいだけど、どうしたの?」
 カルム君の声にハッとした私は首を振って、なんでもないよ、と笑う。腰につけたソルのボールが、少しだけ不満げに揺れた気がした。
 本当は、私も名前で呼んでほしくて…でも、大切な人を失う苦痛が、大切な人を作る怖さが、その言葉に蓋をする。
「街まで肩貸そうか?」
「ううん、いい、ありがとう」
 自分からカルム君に壁を作っていることは、分かっていた。その壁を感じ取ったカルム君が、距離を置いていることも、なんとなくは分かっていた。だけどどうすることもできない。
 私はソルの入ったモンスターボールを握りしめると、せめてあなたはいなくならないでね、と切に願った。

いなくなったのは、果たして誰だったのだろうか。


- 14/44 -


|

 しおり+ もどる