まっさらの姫君 | ナノ
ロ君の名前は


 ぼくのご主人であるナナシは、分厚い本を前にして唸っている。それまではかけていなかっためがねをかけて、辞書に目を落とすナナシは、先ほどの落ち着きのない様子から一転して、とてもかしこそうな印象を受ける。
「せっかく炎タイプなんだから、それにちなんだ名前をつけてあげたいな…」
 ぱらぱらとページをめくるナナシ。ふと、その手元に一瞬見えた図に目が止まった。
「きゃん、きゃおん!」
「えっ、このページ?待ってね…あっ」
 ナナシがページを開きなおした途端、ぼくは辞書の上に飛び乗った。足元の紙を覗き込むと、なんだかとげとげの生えた赤い球の絵がかかれている。
「その絵が気に入ったの?それは太陽だよ、フォッコカッコカリ」
「…きゃおん」
 ぼくはカッコカリの響きに眉をひそめながらも、太陽の絵をてしてしと前足でたたく。
「太陽…タイヨウ…ソル?」
 ぼくが前足で指した部分を読み上げたナナシは、はっとした顔でこちらを向く。
「ソル、ソル!とってもいい名前!これからあなたのことソルってよんでいい?」
「きゃん!」
 ぱぁっと表情を明るくしてぼくに尋ねるナナシに、ぼくは元気よく返事をした。
 こうしてぼくは、ナナシのソルになったのだ。

「ナナシー、着替えも用意できたわよ!」
 ナナシママの声が階下から聞こえる。
「はあい、今行きます!」
 めがねをはずしたナナシとぼくは、階段をばたばたと駆け下りる。大きな荷物とタウンマップを持ったナナシママは、ぼくたちを見てにっこりと微笑んだ。
「プラターヌって博士があなたに何を見てきてほしいのかはおかあさんにはわからないけれど」

「ポケモンとの旅は素敵なことよ!」

 ぼくたちの冒険は、そうして始まった。

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