まっさらの姫君 | ナノ
ロわたしのパートナー


 みっつならんだ赤い球体を覗き込む。
 トゲのある緑色の頭の草タイプのポケモン、ハリマロン。明るい色の毛並みのキツネのような炎タイプのポケモン、フォッコ。泡を首回りに巻きつけたカエルのような水タイプのポケモン、ケロマツ。
「うわぁ、みんな、なんて可愛いの…!」
「ボールに入っているポケモンは逃げないからね、ゆっくりえらぶといいよ」
 目を輝かせて、これでもかというほどモンスターボールに顔を近づけている私とサナちゃんに、ティエルノ君が苦笑いする。
「どの子も可愛くて選べないよ!ねー、ナナちゃん!」
 サナちゃんがばたばたと興奮した様子で言いながら、こちらを向く。しかし私は。
「ううん、私、決めたよ!私はフォッコをもらってもいい?」
 サナちゃんとカルム君を振り返ると、こんなに早く決められたことに二人は驚いていたようだが、すんなり了承を貰えた。
 早く決められたというよりも、迷わなかったのだ。かすかにだけれど、思い出したから。
 …記憶を失う前、私には憧れていた人がいた。その人と同じように、私も初めてのポケモンは炎タイプのポケモンにしようと、決めていたのだ。それが誰だったのかはまだ、靄がかかっていて思い出せないけれど。
「その人は、確か…」
 私は必死に記憶を辿る。
 それにしても、小説のように頭痛を伴う記憶回復ではなくてよかった、と私は心底思った。痛いのはごめんだし、引っ越してきて早々周りの子たちに病弱認定されてしまうのはどうしても避けたかったからだ。
「じゃ、あたしのパートナーはハリマロンちゃんね!」
 私たちのコンビ可愛すぎてどうしよー!と騒ぐサナちゃんの声で我に返る。はっとして前を見ると、モンスターボールの中のフォッコが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「俺の名前はカルム。よろしく、ケロマツ」
 見ると、みんなそれぞれに自分の選んだポケモンをボールから出して挨拶していた。
 私も、恐る恐る残った一つのモンスターボールに手を伸ばす。まんまるな目で伺うようにこちらを見ているフォッコに、拒まれやしないかと、不安が胸をよぎる。
 思い切ってボールを手に取り、ボタンを押す。かちり、と音を立ててボールが一回り大きくなる。その場で軽く上に放り投げてみると、ボールが開き閃光が地面に降り注いだ。
 光がはじけた後、その場にいたフォッコは、私の心配していた様子など一切見せず、嬉しそうに吠えて尻尾を振ってくれた。

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