ナナシは、自分の周りにまとわりつくような怪しい風が吹いているのに気がついた。ついで、草むらの中からぼうっと立ち上る火の玉に。
「…!!」
声も出なかった。
ナナシは懐中電灯を取り落とし、へなへなと座り込む。
(…?おかしいな、このニンゲン、いつもとちがう)
(ぼくがおどかすより前から、泣いてたみたいだ)
(どうしてそんなこわがりなのにここに?)
(…なんだか興味がわいてきた、もう少し近づいてみよう)
へたり込んだナナシの前に、ひときわ大きい光が現れる。
冷静な人や、大人なら、ゴーストタイプのポケモンの仕業と気付けるのだろうけれど、幼くて怖がりのナナシにはそんな余裕はなかった。
「きゃあああ、レトロなランプのおぱけがいる!」
ポケモンは首を傾げながら、ふわふわとナナシに近寄ってくる。
「やだああ、たべないで!」
尚もふわふわと寄ってくるおばけに、ナナシは目をぎゅっと瞑る。
「…?」
何も起こらない。こわごわと目を開けたナナシの前には、相変わらずふわふわと浮かぶランプの姿が。
「ぽ、ポケモン?」
ランプは頷いて、楽しげにくるくると回る。
「よかった…おばけじゃなかった…」
ほっとしたナナシは、少しよろけながらも立ち上がり、膝についた土を払う。
「ポケモンさん、よかったら、いっしよに来てくれないかな…?」
上目がちにこちらをうかがいながら問いかけるナナシに、ランプのポケモンはすっかり嬉しくなって、両うでをバンザイするように振り上げた。
(こわがりの女の子、だけどぼくに話しかけてくれた!)
(こわがりじゃない男の子たちは生意気だし、そのくせぼくを見たら逃げるんだもん)
(ぼく、この女の子についていこう)
こうして、ランプのポケモンと怖がりなナナシはふたたび歩き出した。