黒い巨体の甘えん坊
 私の主人であるナナシは、新しく手持ちに加わったゴースと仲良くなるために、近頃は毎日のようにゴースの相手をしている。
 優しい手つきでゴースを撫でてやったり、およそスマイルとは呼びづらいほどの変顔(ばくはつスマイル)で顔真似あそびをしたりするナナシをボールの中からそっと窺う。ナナシにまとわりつきながらきゃっきゃとはしゃぎまわるゴースを見て、私も自分がヨマワルだった頃、彼女にあんな風にかまってたもらっていたことを思い出す。
 きのみをもぎったりパズルをしたりしてゴースと遊ぶナナシをぼんやり眺めていると、彼女はゲームを終えてポフレを取り出した。桜色のきれいなデコレーションが施されたそれを初めて見たとき、ヨマワルだった私は宙返りして大喜びしたものだ。飛び回って喜ぶゴースと、同じくらい嬉しそうに微笑んでいるナナシ。
 ああ、懐かしさの奥にあるこの寂しさは、いったいなんなんだ。ボールのすぐ外には、いつもと変わらず愛する主人がいるというのに。
 ゴースのあんぐりとあけられた口元に、ナナシはポフレを近づける。ナナシの手からそのままポフレを頬張るゴースからは、捕まえた当初の警戒心など欠片も感じられず、ナナシもそれを見て幸せそうにはにかんでいる。
 どこからどう見ても微笑ましいはずのその光景に、うまく笑えないのは何故だろうか。目を閉じて俯く。
 優しいナナシは、私がヨノワールにまで成長した今でもたびたびポフレをくれるのだが、手の小さなヨマワルだった頃のように彼女の手から食べさせてはくれない。ゴースの姿と今の自分を比べる度、胸をちりちりと焼く感情に苛立つ。
 ああ、…そうか、これは、きっと。
「ヨノワール?」
「!」
 考え事をしていた私は、ナナシにコツコツとボールを突かれて我に返る。
「どうしたの?さっき、ポフレを見ながら怖い顔してたよ?」
 ナナシはボールから私を出すと、心配そうに私を見上げる。
「もしかして、おなかすかせてた?ごめんね、気がつけなくて」
 ナナシは少しシュンとして、私のためにとポフレを取り出す。
「はい、これ!ヨノワールも、ヨマワルだった頃からこれ好きだったよね」
 大好きな主人が取り出した、大好きな桜色のポフレ。しかし、ナナシが私の手を掴みポフレを持たせようとしてくれた時、私はかぶりを振った。
「ヨノワール?」
 私はポフレと自分の口を交互に指差して、ぱっくりとお腹のおおきな口を開く。
「もしかして、ゴースの見て、あーんしてもらうの羨ましくなっちゃった?」
 ナナシは私の言いたいことを察したのか、ふわりと微笑んだ。
「ごめんね、いつまでもあーんしてたべてもらってたら、ヨノワールが嫌がるかなって思っちゃってたの。でも独りよがりな心配だったみたい」
 大好きな主人が嬉しそうに笑いながら口元に持ってきてくれた、大好きな桜色のポフレ。
「本当は私もさみしかったの。こんどから、また昔みたいにあーんしてもいい?」
 返事の代わりに、ぱくりとおおきな口でかじりついた。

黒い巨体の甘えん坊
(どんなヨノワールもだいすきよ、だからもっと甘えていいのよ)
(!)


prev next

bkm
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -