「クチート、頼むから一口くらい食べてみてくれよ……本当に美味しいって評判なんだって」
「クチッ!」
はぁ、今日もダメかぁ……。
ため息と共に虹色の豆のようなお菓子をしまおうとすると、俺 ナナシの愛しのポケモンであるクチートは、それをぶんどるようにして走り去ってしまう。
「あっ、クチート!」
出会ってからずっと、クチートのあまりの可愛らしさに甘やかしすぎていたせいか、ナナシのクチートは多少わがままに育ってしまったようだ。
まあ、そこが可愛くもあるのだが。
……なんて考えてしまうナナシは、相当毒されているに違いない。フェアリータイプどころじゃない、あの子はナナシにとってはこの上なく可愛らしい小悪魔そのものだった。
走り去ってしまったクチートの後ろ姿を見送って、ナナシはポケマメ袋に目を戻す。さまざまな柄付きポケマメが溢れる中、虹色に光り輝くそれは、クチートにプレゼントしたもの一つのみだった。
ポケモンセンターにある行きつけのカフェのマスターに何度も何度も頼み込んで、ようやく手に入れたものなのだ。
「うーん、何が気に入らなかったんだろうなぁ……食欲が減退する色とか?」
■■■
考え込むナナシのことを知ってか知らずか、その頃のクチートは、きらきらと輝く虹豆を太陽に照らしてうっとりと見惚れていた。
(トレーナーさんが、ついに、ついに私に虹豆をくれたわ!)
クチートも、虹豆の存在は知ってはいた。他のトレーナーたちが、最も愛するポケモンにだけそれを贈っている場面を、何度も何度も横目で眺めてきたのだ。
羨ましくなんかない。
私のトレーナーさんは、今でも十分私を愛してくれている。
ずっとそう思い込んでいただけに、現物を見た瞬間の胸の高鳴りは尋常ではなかった。
あまりの嬉しさにそのまま駆け出してしまったが、トレーナーさんは今頃どうしているのだろうか。
(これ、食べなきゃ腐っちゃうのかしら。どうにかして、どこかに飾っておけないかしら。そうだ、モンスターボールに一緒に持ち込めば……)
クチートがあれこれ思考を巡らせている間に、ナナシは十四回目のため息をついていた。
甘酸っぱい嘘つき
(これでどうかしら、我ながら完璧なディスプレイだわ……)
「く、クチート、それはインテリアじゃないぞ、食べ物だぞ?」