■ トリトとお酒
※捏造設定・嘔吐描写あり※
「あぁぁトリト先生、べろんべろんじゃないですか!弱いならなんであんなに言われるがままに飲んじゃったんですか……!」
これはある忘年会の後のお話である。
ナマエはお酒で泥酔状態になったトリトの肩を揺さぶって問い詰めていた。
研究所で一番お節介焼きの彼女は、自分の世話を焼くのが下手なトリトの世話係のようなものなのだ。
「んむぅ……い、今は、ゆ、ゆらさないで……気持ちが悪……うぶっ」
「あっちょっ先生、袋……っ」
ナマエが慌ててカバンの中のエチケット袋に手を伸ばすも、時はすでに遅く。
トリトの戻してしまったもので、ナマエの服はびちゃびちゃに汚れてしまっていた。
「うーん……とりあえず、私の家の方が近いし、タクシーつかまえて帰りますよ、先生」
テキパキと吐瀉物をウエットティッシュで拭き取っていったナマエは、トリトを肩に担ぐと、よろけながらもなんとか立ち上がった。
「ほら先生、頑張って歩いて……後もうちょっとですから」
「うぅ、ん……」
ふらつきながらもなんとか自分についてくるトリトを見て、ナマエは母性が刺激されるような変な感覚に陥った。
(私、自分より年上の男の人相手に、お世話してあげたいだなんて……何変なこと考えてるんだろう)
ナマエは往来を行くタクシーを一台呼び止めて、饐えた匂いに嫌な顔をする運転手を無視してトリトを車に押し込むと、自分もその隣に乗り込んだ。
「先生、もう家につきますよ……ほら、よいしょ、っと……!」
車からトリトをおろしたナマエは、自分の部屋の鍵を開け、トリトを中へ誘導する。
「うぅ、気持ち悪、い、です……」
「そりゃそうですよ、あんなに飲まされてたんだから!はいこれ飲んで!飲んだら吐く!」
水を手渡されると、大人しくそれをこくこくと飲むトリト。そして、容赦なくトイレに引きずり込んでトリトの喉奥に指を突っ込んで吐かせるナマエ。
そんな光景が何度も繰り返された後、ようやくトリトの酔いが醒めてきた。
ウェットティッシュで拭き取ったとは言えまだ汚れたところのあるトリトをなんとかしようと、ナマエはもう一度トリトを担いでお風呂場へと向かう。
「え、ナマエさん、何を……」
「何って、体洗わなきゃ汚れたままじゃ困るでしょう?」
その途端、弾けるように立ち上がったトリトが、あたふたと慌てながら「い、いえ、大丈夫です、自分で洗えますから……!」と消え入りそうな声で訴えた。
「何言ってるんですか先生、そんなにふらついてるのに。さあほら、大人しく入ってください!」
ナマエに厳しめに促され、結局断りきれないトリトは、よろめきながらお風呂場に入っていく。ナマエはそれを見届けてから、順序よくタオルなどの準備を済ませていった。
「あ、どうしよう、先生が着られそうな服がない……」
いくら細身の先生と言えども、女性ものの服では厳しいだろう。
「う、うん、これならぶかぶかサイズだからきっと入るけど……ま、まあ仕方ないよね」
ナマエはそれをクローゼットから出して準備物の中に混ぜ込むと、トリトを洗いにお風呂場へと向かった。
「だ、だから、前は自分で洗えますからっ」
「だめです!先生はじっとしててください!」
慌ただしくお風呂を済ませると、ナマエはトリトを風呂場から引きずり出す。
「え、ナマエさん、これ……」
「服は洗濯中だから入りそうなのがそれしかないんです、それ着て寝てください!」
ナマエはぷんすこ怒りながらも真面目にトリトを心配していた。しかし、トリトの手にあるのは、なぜか可愛らし過ぎるデザインの、ぶかぶかサイズのうさぎ の耳がついたパーカーだった。
「う、ううん……さすがに男の僕がこれを着るのは、無理があるというか、情けないんじゃ……?」
「さっきまで散々情けない姿を見せてたじゃないですか。ほら、さっさと寝ますよ!」
「あう……」
容赦のない追い打ちに、トリトは仕方なくうさぎのパーカーをかぶる。
ナマエにはぶかぶかのパーカーだったが、トリトが着ると少し袖が余るくらいの大きさだった。
「……イイ、です…」
「へっ?」
「い、いえ、何でもありません!!」
しっかり者のイメージばかりが定着しているけれど、実は可愛いもの好きのナマエは、トリトの姿に胸キュンを感じずにはいられなかったのだ。
今度また新しいパーカーを探して着てもらおう……と考えながら、ナマエはトリトのために布団を敷く。
そんなトリトの男らしい凛とした姿にナマエが恋に落ちてしまうのは、また随分と後のことであった。
不完全、だから美しい
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