■ トリトと新人研究員

「あの新人、面食いって噂よ」
「ああ、だからトリトにやたら懐いてるんだな……中身を知ったらがっかりするんじゃないか?」

パタパタと忙しく走り回った末に転んで資料をぶちまけたナマエを見て、一瞬びっくりしながらも、研究員達の噂話は続く。

「今朝のアタックの時はトリトの狼狽えようも面白かったな」

噂の的であるナマエは、可愛らしくどことなく幼げな容姿をした少女で、トリトと同じ研究機関に配属された新人の研究員である。

そして、トリトに片思いをしている。

「トリト先生っ、お昼ご飯ご一緒してもいいですか!?」
「うわっ、えっ、えっと、いい、けど……」

僕なんかと食べて楽しいのかな、と消え入りそうな声で呟くトリトの隣で、ナマエはいそいそと自分の弁当箱を開ける。トリトの相棒であるラッキーは、気を利かせてトリトの隣を空けてくれていた。

ふと、ナマエはトリトの方を見て、素っ頓狂な悲鳴を上げた。

「ちょ、ちょっと待ってください、先生のお昼ごはんゼリーだけ!?」
「う、うん、でもこれほら、栄養満点だし……」
「ダメですよ、いくら研究に熱中したいからって、食事をおろそかにしちゃ!」

トリトは、ポケモンフーズの栄養のことは気にはかけても、自分のこととなるととことん無頓着らしい。
無造作に縛られた若草色の髪をうなだれさせて俯くトリトを見て、ナマエは自分の弁当箱をそっと差し出した。

「先生、私これでも管理栄養士の資格持ってるんです。……わ、私のお手製弁当、食べてくれませんか?」

少し押しが強すぎたかな、とナマエが後悔したのも束の間、トリトは表情を緩めてその弁当箱を受け取った。

「そうだね、可愛い後輩がせっかく言ってくれてるんだから……いただこうかな」

不意打ちのトリトの笑顔に戸惑ったナマエは、コイキングのように口をパクパクさせながら「は、はい……」と答えるのが精一杯だった。

「彩りがとても綺麗だ……マトマの実が添えられているからかな……?」

トリトは料理に関しても研究熱心なのか、盛り付け方をまじまじと観察している。
ナマエは自分の作った弁当が好きな人の手に渡って、それも舐め回すかのような視線にさらされているかと思うと、恥ずかしさで気が遠くなりそうだった。

「せ、先生、は、はやく食べないとお昼休み、終わっちゃうから……っ」

トリトはナマエの真っ赤な顔を見て、自分のしていたことの恥ずかしさに今さら気がついたのか、耳まで真っ赤になって俯いた。

「い、いただきます……美味しいです、すごく」
「よかったですっ」

後は会話もほとんどなく、昼食はあっという間に終わってしまった。(その間、トリトは幾度となくラッキーに小突かれていた。)

「あ、来た来た、例のお二人さん」

フラスコの中を洗浄しながら、研究員が目をやった方向には、朝よりも少しだけ縮まった距離で歩いているトリトとナマエの姿。

ナマエの恋はまだまだ始まったばかり。まるで研究のように、これからさらに深くなっていくのだ。

ナマエの前ではトリトがいつもよりもほんの少しだけ安心した表情を見せていたことを、知っているのはアフロヘアーの研究員のみである。

恋という侵略者

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