■ トリトとエンドレスエイト

※メンタルフルボッコ、略してメタ設定です。短いです

じめじめとした夏が終わり、風が涼しい秋が来て、また息が白くなる冬が巡りくる。桜が咲く季節にようやく、その時はやってきた。

あなたは薄い円盤を、DVDプレイヤーのトレーにセットする。
トレーがプレイヤーに引っ込むと、カリカリと機械音が響き出した。

映し出されたのは僕にとっては言葉では言い表せないくらいに懐かしい情景で、……あなたにとっては、もしかすると、何でもない日常の中の、記憶の一ページに過ぎないのかもしれないけれど。

しばらく経って、画面には僕が映し出される。画面の中の僕はまだその後に何が起きるかも知らずに、情けない醜態を晒している。
あなたはそんな僕のことまで、引っくるめて愛してくれていたんだね。何度も劇場に足を運んでくれたあなたを、僕は画面越しにだけれど本当はずっと見ていた。

しばらくして、懐かしいあの街に災いが降り注ぐ。元はと言えば、僕の研究が原因だったようなものだけれど。

円盤は回る。

物語が進むにつれて、そこにいる“登場人物”の誰もが、それぞれの道を進んでいく。
そこにいる“僕”も例外ではなく、僕の言葉がみんなの胸に届く“シーン”が、画面に映し出される。

円盤は回り続ける。

やがて、物語は終焉を迎えた。
街の災害は無事に収束し、山火事も消し止められて、そこに残ったのはいわゆるハッピーエンドというものだ。

円盤の機械音が止まり、満足気なあなたは円盤をトレーから取り外す。

僕は円盤の中に閉じ込められたまま、そんなあなたを見ている。

こうして、あの八月を繰り返すのは、もう何度目だろう。
その度にあなたは僕のことを愛おしげな目で見てくれて、僕はそれが嬉しくて。
だけども円盤が回り終わると、あなたはもうどこか遠くの世界に行ってしまう。

でも、それでいいんだ。

それこそがこの世界の、在るべき形だから。

「あなたはどうか、その世界で幸せになってくださいね」

僕は、この世界で、ちゃんと生きていきますから。

何度繰り返したって、何度やり直したって、何度でもこの街を救ってみせます。
あなたがそう、望んでくれる限りは。

届かない言葉を、僕は円盤の中からそっと送る。

あなたは円盤をとても丁寧に手に取ると、パッケージの中に入れる。
ああ、今日も、蓋が閉じてしまう。

あの夏に、あなたと繋がっていた人たちとの接点が、今はもう、この薄い円盤一つだったとしても。

僕は、いつまでもあなたを見守っています。

きみはまた僕の夢を見る

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