■ トリトと夏の終わり

※メンタルフルボッコ、略してメタ設定です。

『トリト先生、先生、季節によって姿を変えるポケモンもいるそうですね』

「……」

『夏の終わりには、秋の始まりには、その真ん中には、一体どんな姿になるのでしょうか、先生は見たことがありますか?』

「…………」

返事がない。当然だ。

きっとポケモンに詳しい先生ならば知っているはずなのに、どうして教えてくれないんだろうか。その答えは、自分の旅の中で探し出せとでもいうのだろうか。

ため息をついて、私は“たくさんある”中の一つの、愛しい人を撫でる。冷たく固い感触が、指先を撫で返した。

開け放した窓から見える空には、いわし雲。
入道雲が見えなくなったのは、果たしていつからだっただろうか。

不思議と懐かしいようで初々しいような、雨に濡れた土と草の香りが鼻をつく。
毎日のように天候が悪くなるようになったのは、果たしていつからだっただろうか?

『先生、教えてください。どうすれば、また会えますか』

会ったことすらないその想い人から、今日も答えは返らない。

私は彼が活躍する映画の主題歌を小さく口ずさむ。それは秋の匂いをはらんだ風に紛れて、遠く消える。
何度も繰り返したその歌は、いつのまにか歌詞を見なくても最初から最後まで歌えるようになっていた。

「もう天才ですよ!」

どこかで彼が懐かしい声で笑ったような、そんな気がした。

ざわりと木が風に傾いで、今年も、夏が終わる。

涙だけは止まらなかった

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