頂き物 | ナノ







最近、梓の態度がそっけない。悪いことをした覚えは無い…はず。
とにかく、このままじゃまずいと思って私から声をかけてみたのに。
ただの喧嘩に発展。

「もっと言い方ってものがあるでしょ!?」
「それを言うなら名前先輩だって同じですよ」

部内で気まぐれに始まったじゃんけん大会。見事に私と梓、二人で負けて弓道場の掃除を任された。
掃除自体は既に終わってるんだけど………めげそうで。

「な、なんでそんなに怒ってるのよぉ……」
「ちょっと、泣かないでくださいよ名前先輩」
「っ泣いてないよ!」

私が慌てて目を擦ると、梓の手が私の手首を掴んだ。

「ほら、泣いてるじゃないですか」
「うっさい! 梓こそ、怒ってる理由教えてよバカっ!」
「……そ、それはですね…」

梓はばつの悪そうな顔で、真っ赤になって目を逸らして言った。
僕の誘いに、名前先輩が中々乗じてくれないから…。

「僕、何度もあなたに部屋に来るように言ってますけどっ!?」
「………それ、もしかして、」

先輩がどうしてもって言うなら、僕の部屋に来ても良いんですよ?
先輩一人じゃ可哀相なので、僕の部屋に泊めてあげます。

「それなのにあなたは毎回毎回、余計なお世話だって言って…っ」
「あれは梓の言い方が悪いんでしょ! って言うかそれ、怒ってるんじゃなくて拗ねてるって、」
「う、うるさいです!」

大声を出して真っ赤になった梓を。可愛いとか……。
違う!思ってない思ってない!

「とにかくっ、なんか悔しいので、」
「なにそれ………きゃあっ」
「今すぐ名前先輩をいただきます」

通い慣れた弓道場の床に押し倒される。強かに背中を打ち付け、私は涙目に。
いったいなぁ! なんて反論している間すら無くて。
梓の手は既に袴の中。

「ふ…ぁっ、こ、んなとこで…ぇっ!」
「先輩が悪いんです、僕を待たせるから」

本当はずっと、あなたにこうしたかったんだから。
と、いつになく素直に言うから。私は抵抗する気さえ、無くしてしまった。

「もう、我慢できない……」
「え、まっ、待って……やぁ…っ」

痛いよ、ちょっと、ねぇ!

「私、はじ…めて……っ、いた…ぁ……」
「名前先輩のそういう顔は、可愛いですね」

"は"に力を入れて、梓は言う。
乱れた弓道着から覗いた鎖骨に口づけられた。私の身体はそれだけでピクリと震えた。

「先輩、一度しか言いませんからね、」
「な……にがっ、は、あっ」
「…………大好きですよ」
「ふぇ……っ?」

冷たかった床はいつの間にか二人の体温で温くなっていた。
あとは、梓の腕が私をぎゅうっと強く抱きしめてきたから。
私は自分の顔の横にあった梓の真っ赤な頬にキスをした。





キスこそが不可抗力


(名前せんぱ……、今…っ)

(た、たまたま当たっただけだからね!)