衝撃的だったはずなのに、何処か納得して綺麗に飲み込めた自分がいた。私に精神的動揺がなかったと言えば嘘になるが、泉君だからこそそういう考えも有りだと思ったのだ。野球が好きって、凄くいいことだ。

「あ、泉君おはよう」
「うス」
「えー俺はあ!?」
「あれ田島いたの?」
「……」
「嘘だよごめんって。おはよう」

結局あの後はグラウンドに入らないでそのまま帰った。やはり微妙に気持ちが沈んでしまっていたし、そんな気持ちで野球部に顔を出しても失礼だと思ったからだ。でも田島にはたまたま通り掛かったけどあんた煩かったよと言っておいた。

朝練後の泉君はエナメルバッグを足元にどすんと下ろすなり少しばかりきょろきょろと近辺を見渡してから、私を見て首を傾げた。

「浜田は?」
「自分の席で宿題写してるよ」

そう言って窓際最後列を指差して示せば泉君は呆れたように溜め息を落とした。

「またかよ。苗字の?」
「ちなみに生物」
「あいつこの前数学の宿題借りてなかったっけ?」
「あれは約束してたからいいとして、生物は放課後コンビニで手を打ったんだ」
「一人暮らしにコンビニとか、お前性格……」
「この前分け前ガムだけなのに割り勘したから、いいんですー」

野球が一番だと泉君の声を聞いてから数日が経ったが、前よりも仲良くなれた気がする。重荷みたいなのがなくなって気持ちが軽くなったからかもしれない。

未だに食べきれていない浜ちゃんからもらったあのガムを今日食べようと、泉君と田島にも恵んであげた。

「何味ー?」
「ド定番のブルーベリー」
「俺ブルーベリー好き!」
「そりゃよかった」

たかがガムで異常に喜ぶ田島の後ろから三橋君が教室に入って来たのに気が付いて、慌ててガムを二粒取り出した。

「三橋君おはよう!」
「お、おっ……おはっ」
「ガム二つあげる」
「っああ、ありがとっ!」
「はあ!?ヒイキだろそれ!」
「田島煩い」

三橋君はあまり話さないけれど、物をあげたりすると嬉しそうにはにかむ。餌付けしているつもりはないが、そう満面に出されるとまた見たいと思うのが人間の性。

ガムを紙から出して口に運ぶ三橋君を見てふわふわと和んでいると、横から私が食べる為に出した分のガムを持っていかれてしまった。泉君がガムを親指と人差し指で摘まんで私を見ていた。

「もう一個もらっていい?」

そう喋る度に泉君の口から甘酸っぱい匂いがしてくる。私があげたガムは既に口の中らしい。

浜ちゃんのように、田島のように、三橋君のように、私が定めた数のガムを渡せたらいいけれど、泉君だとそうはいかない。惚れた弱味と称すればいいのか、泉君が欲しいと言ってきたら頷く他はない。浜ちゃんや田島だったら絶対あげないし、三橋君ならまずせがんでこない。

「俺はトクベツ?」
「へ」

再び香るブルーベリーの匂いに釣られて泉君を見る。真っ直ぐと私を見詰める澄んだ大きな瞳に、私が映り込む。逸らしたいが逸らせない。いや、だって、今、泉君何て言った?え?トクベツ?トクベツ?

「苗字ってさあ」

泉君からブルーベリー。

「好きな奴がいたら、そいつをずっと見詰めるタイプ?」

あれ。

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