放課後、特にやる事のなかった私はバイト休みの浜ちゃんに誘われて二人で教室に入り浸っていた。 気分的に帰りたいんだけどなんて溢すと浜ちゃんは急いでコンビニに行きお菓子を沢山買って来た。まるで私がパシリにしているみたいで気分が悪いし、しかも一人暮らしの浜ちゃんにも悪い。 「多分、大体割り勘」 そう言って財布から五百円一枚を出して浜ちゃんに渡せば、勿論浜ちゃんからいらねーよそんなのと押し返された。浜ちゃん如きに遠慮するな。私は無理矢理浜ちゃんの手にそれを握らせた。 「女から払われるのって、なんかかっこわりィ……」 「半分じゃん」 「半分もらうとかさあ、ちょっと男が廃るワケよ」 「男子高校生がほざかないでください」 「お前の頭ん中見てーよ。本当は昭和生まれなんじゃね?」 「お前より一つ年下だ」 今まで人生を全うに生きてます、と睨めば浜ちゃんは言葉を詰まらせた。君は留年したからね、もう既に全うとは程遠いよね。 渋々といった感じではあるが五百円玉をズボンのポケットに突っ込んだ浜ちゃんに満足してから、机に置かれた袋からポテトチップスを取り出す。次いでに他の物を見て、私はポテトチップスを中に戻した。ガムが入っていた。 何て事のない粒のガムを出して、それだけを開ける。浜ちゃんが何か言いたそうにしていたのに気が付いて、ガムを一つ渡しながらどうしたのと聞いてみた。 「……いや、なんでそれだけ……」 「ガムの気分だったんですー。もらっていい?」 「い、いいけど、さあ……」 腑に落ちないとでもいうように口を尖らせる。私はガムが食べたいのだからガムでいいのだ。そういえば何味だったんだと表に記載されている所を見てみれば、定番のブルーベリーだった。 「……なんで、お前なんだろ」 このパッケージ初めて見たなと思いながら眺めていた時にそう呟かれ、浜ちゃんの方を見る。なんだその言い草は、私で悪いか。 そう言い返そうとしたが泉君の席に居る浜ちゃんは顔を伏せてしまったので、止めておいた。ちょっと空気が重たく感ぜられた。私と浜ちゃんしか居ないこの教室には規則的な時計の音と、私のくちゃくちゃとガムを噛む音だけが響き渡る。 暫く沈黙が続いた頃、不機嫌そうな浜ちゃんは顔を上げてガムを口に放った。二人分のくちゃくちゃが響く。 「私と浜ちゃんは、親友だよ」 「知ってらあ」 くちゃくちゃ、くちゃくちゃ。 「私は泉君が好き」 「俺がお前にいっぱい話したんだもん、泉の事」 ごくん。あ、飲み込んじゃった。 「浜ちゃんありがとう。お前はやっぱり私の親友だよ」 そういう事で、明日の数学の宿題で手を打ってくれるかい。そう聞けば、浜ちゃんはいつもの鬱陶しいくらい弾けた笑みを浮かべてみせた。 「当たり前」 そうして、暫く浜ちゃんと他愛もない話をしていると夕焼けになり始めた。流石にやべえなと呟いた浜ちゃんに同意した私は鞄を手に、野球部覗いてみるとだけ言って浜ちゃんと別れた。 そろそろ終わる時間だろう。第二グラウンドまで行くのは少し面倒臭いけど、自転車だからまだいい。ペダルを濃いで目的地を目指す。 グラウンドの姿が見え始めると田島の笑い声が響いてきた。あいつはいつでも何処でも煩い奴らしい。着いたらまずは田島にちょっかい出そうなんて、考えていた。 「好きです」 第二グラウンドの入口からそんな可愛らしい女子の声が聞こえて思わず漕ぐのを止めた。少しだけ後ろに下がって、用水路にかかる橋の上で止まる。だがそこでは姿も声も分からなくて、下心を携えた私は入口に近付き死角になる場所で、待機。 「好き……です。泉君が、好き」 「あー……、ごめん。そういうの、いらないから」 「すっ好きな人、とか、は……」 ごくり。喉が鳴った。 「今は野球に専念したい」 私と泉君は違う。帰宅部と野球部で、努力してる大きさも違って、今まで生きてきた人生は勿論違う。 私が泉君を好きなように、泉君は野球が好きなのだ。 |