教室の窓際一番前の後ろ姿を見詰めることが私の日課の一部だ。一部、というより既に掛け替えのない一つになってしまっている。ああ、泉君、かっこいい。

泉君とは殆ど言葉を交わしたことがない。泉君の顔だって真正面からちゃんと見たこともない。それなのに、いつの間にか泉君の声ばかりが耳に尾を引いていて、泉君の姿が瞼の裏に焼き付くされていて。

人を好きになるのに理由なんていらないんじゃないかなと私は思う。私は。だって気が付いたら泉君ばかりが私の頭の中を支配していたし、泉君の何処を好きになったのかも分からない。

見ているだけで幸せなこの気持ちは恋じゃあないよね、憧れなんだよね。隣の席の浜ちゃんにそう力説してみたが、そんな事知らねーよと面倒臭そうにかわされた。マジ浜ちゃん使えない。そんなんだから留年しちゃうんだよと毒を吐いたら、叩かれてしまった。

「浜ちゃん女の子殴った!」
「殴ってねーもん、叩いたんだもん」
「揚げ足取るな浜ちゃんのくせに!」

それひどくねえ?眉を顰めてさも傷付きましたーと胸元をぎゅっと掴む浜ちゃんの態度に殴り飛ばしてやろうかと右拳を作った時、にやりと気持ちの悪い寧ろやっぱり殴り飛ばしたくなる笑顔で浜ちゃんは言った。

「俺って案外使える人間なのよ?」

今現在使えてねーから言ってるんだよ私はとやっぱり浜ちゃんを殴ったのだが、まさか一ヶ月後の今日、本当に浜ちゃんは使える奴だったんだなと謝りたくなってしまった。


席替え。

それは人によっては必要ない行事だけれど、私にとってはかなり重要視するクラスだけの行事。浜ちゃんと離れるのはちょっと残念かもと思ったけど、それより上回るのが泉君が何処の席になるかなのだ。

泉君には出来れば私より前の席に座って欲しい。恋する乙女の気持ちを分かってくれ。泉君が私の後ろの席になってしまえばいつもの日課を遂げられないし、泉君の事を見られなくなる。そもそも振り返るのが恥ずかしいし、何より泉君を正面から見るなんて出来ない。あれ、私ってちょっとストーカー予備軍?

「苗字、お前何番?」

担任の先生お手製の四つ折りになっている紙を開いて見てから、それを浜ちゃんにも見せてやった。12の文字。廊下側二列目の真ん中辺りという普通の席だった。

「なんだ、お前12?」
「浜ちゃんは?」

すると一ヶ月前に見たあの笑みを浮かべた浜ちゃんが「俺え?」とにやにやにやにや。

「え、殴っていいの?」
「言ってねーよそんなこと!ちょっ、お前今からびびんなよー」
「浜ちゃん如きにびびらないよ。私もう移動するから、達者でな」

椅子を机に乗っけてずるずると新しい席に向かって歩き出す。周りの席には誰が座るのかな。三橋君来ないかな、彼凄く面白いんだよね。でも田島は嫌だな。あいつ煩いし。女の子は可愛い子がいいなあ。そんな事を思いながら目的地に辿り着き、椅子を下ろす。私がそこに腰を掛けようと動き出した時、たった一つの右隣のスペースに机が落ち着いた。座ると同時に見上げる。ソ、バカス、の…………はい、私は死にます。

(いいいい泉君んんん!!)

浜ちゃんはキューピッドにでもなりたいのかな、やっぱりむかつくから殴っておこう。

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