「あけおめことよろ」 今まで順調に笑顔で仕事をこなしてきていたのに、無表情且つ無感情な新年一発目のそれに、私の顔は般若のお面を貼り付けた。 それにも拘わらず、仕事中だとも感じさせない沖田さんは飄々とした態度で店頭の長椅子に腰掛けた。しかも私の持つおぼんの上から団子を一本盗っていった。いやそれ他の客の注文品なんだけど。 「うーん、十七点」 「勝手に食べてそれですか!?」 「去年よりは八点上がってるぜ。まァ、正月サービスだから来週からは五点くらい下がると思いな」 「すいません帰ってもらっていいですか」 「なに、もう一本サービスしてやる?そりゃすまねェな」 「言ってねェェェ!!つうかそれ注文品だから食うなァァァ!!」 くっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ。いらいらいらいら。くっちゃくっちゃくっちゃごくん。いらいらいらいら。 沖田さんはすくりと立ち上がり片手を上げた。 「それなりに上達したじゃねーか」 私は今にも歩きだしそうな沖田さんの腕を確と掴んだ。 「いやそれ店長作ったやつなんですけど」 「あ〜通りで。お前がいきなり上達する筈ねーもんなァ」 「…………」 言いたい事ばかりぺらぺらと言いやがってこの男は。金を払わずに行く気はないようで、掴まれた腕をそのままにして彼は再び長椅子に落ち着いた。自由人めが。 沖田さんは私が店員を勤めている団子屋によく足を運んでくる。店長曰く仕事中のサボリに此所が使われているらしい。その辺の事は私が知らなくてもいい事なので、あまり深く考えないようにしている。 ……しかし、流石に私の仕事まで邪魔するような行動をされてしまうのは見過ごせない。 二本目の団子をくちゃくちゃ噛んでいる沖田さんを見て、私は溜め息を落とした。すると沖田さんは私を見上げた。 「幸せも男も逃げるぜィ」 「本当、邪魔しにくるのもいい加減にしてくださいよ」 「あ、お前今シカトしたよな?なあ今シカトしたよな?」 「いったたたたたたた!!すいませんってば、謝るんで地味に脛蹴るの止めてください!」 何をしても彼のペースに引き込まれてしまう。結局私の話は脛を蹴る沖田さんによって掻き消さたし、三本目の団子まで食べられてしまうし……ああもう皿に串だけしかないじゃないか! すっかり一皿を平らげた沖田さんに呆れながらも笑ってしまう私がいる。何だかんだ言ってよく来てくれて、悪態をつきながら全て綺麗に食べてくれる。 新しい団子を用意しないとなと思っていると、沖田さんが見計らったかのように私の袂をぎゅうと握り締めてきた。いやいや、皺が……。 「新年一発目でお前に会えてよかった」 思わず目を丸くする。 (う、え、ちょっ……それって、どういう……!) カッと身体中が火照り、それの具合を表すように顔が熱い。授業中に皆の前で当てられて答えを間違った時のような羞恥心によく似ている。 いつなく真剣な面持ちの沖田さんに見詰められて、少なくともそういうアレかと自惚れて── 「今日金ねーんでお年玉代わりにお前持ちな」 「すいません帰ってもらっていいですか」 たかられた。 |