吹雪くんと初めて会った時、なにこの可愛い男子としか思えなかった。

神様は不公平だと思うのです。なんで男子を可愛くするんですか。おかしいです。

ふわふわと柔らかな薄紫の髪の毛、積もりたての雪のような肌、好感度高そうな太い眉、垂れがちな大きい瞳、通った鼻筋、桜色した小さな唇。

対して私は普通。髪の毛は真っ黒、日系人特有の黄色めの肌、手入れはしてるけど微妙な眉、可もなく不可もなくな瞳、潰れた鼻、血色の悪い薄い唇。

初めて彼を見た瞬間、あ、こいつモテると。既に薄く上気した頬を見た瞬間、あ、世界が違うと。だっていないもん、あんな可愛らしいピンク色した頬の人間なんて。
とにかく、神様は不公平だと思うのです。


「苗字さんって」

そうこうしていつの間にやら私達が乗っていたイナズマキャラバンというやつは、北海道を出て南下していた。新しいエースストライカーを仲間に出来、そして新たなエイリア学園の敵と戦う為に、寒い北国とはおさらばに。考えてみると、地元を離れたのって実感が湧かない。それは円堂くん達もいるからだろうか。

比べて吹雪くんはたったひとりだ。昔からの知り合いなんてキャラバンには彼にはいない。寂しくないのかな。

隣に座っている吹雪くんの顔を見詰めているとそんな事ばかりが浮かんで、彼からの呼び掛けをすっかり忘れていた。

「なに?」
「苗字さんってさ、なんか、可愛い」
「……うん、ごめん耳悪くなったかもしれない」

すいませーん誰か通訳をお願いしまーす。

せっかく人が心配していたのに、なに、この仕打ちは。どうやら吹雪くんは強い子らしい。
そんな私の反応に吹雪くんは困ったように太めの眉を垂らして笑んだ。畜生、なんでそんなに可愛いんだ貴様は。

「よく言われない、かな?」
「ちっとも。周りからはよくがさつだのなんだの言われちゃうんだけど」
「ああ、そっか」

おい何納得してんだお前。ていうかその縦にした拳を掌に打つ仕草やめろ。腹立つ。

「なんかね、苗字さんは自分が持ってないもの持ってるんだ」
「よく分からないんだけど」
「だから、可愛い」
「…………」

本当、誰か通訳お願いしまーす。話が分かりませんその前に話のキャッチボールが出来てません。

どうしたらいいんだこの状況はと何気無く視線を彼から逸らした時、頭上から小さな笑い声が聞こえた。なんで笑うの。

「羨ましいのかもしれないな」

君が。それに私は眉をしかめた。

「変だよ吹雪くん。私は君が羨ましくてしょうがないんだけど」
「どうして?」
「……その、あれ。外見?」
「ああ」

にっこり笑う吹雪くんに何と無く察した。外見については言われなれているのだな、と。まあ仕方ないよね、そんだけ整ってちゃ。けどうちには風丸くんという美人がいるからそうはいかないぜ吹雪くんと、何やら変な対抗心を燃やしてみた。いや私が相手じゃないんだけども。

「じゃあ、お互い無いものに惹かれたのかな?」
「私なんかなんの取り柄もないんですけど。嫌味?」

確かに私は吹雪くんに少なからず惹かれた。だって男子のくせしてそのベビーフェイス。可愛いんだもの。

そんな吹雪くんが私に惹かれたなんてちゃんちゃら可笑しい話だ。私のどこがいい? 髪の毛は地味だし肌も眉も瞳も何もかも微妙なラインだ。……自分をそこまで不細工だとは思ってないけど、彼にしてみれば私なんか足下にも及ばないだろう。

考えていくうちに益々彼の事が分からなくなって頭がこんがらがってきた。でも、そんな深く考えなくとも支障はないはず。取り敢えずお互い無いものを羨ましいと思っているんだと。それだけ。

「僕も、君みたいに強くなりたいな」
「うん、鬼道くんに通訳頼んでくるね私」

ひとつのわだかまりが凸凹道での揺れと共に弾んだ。

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