かわいい。それが彼にはぴったりの、見た目も中身も引っ括めての表し方だ。

「立向居って柴犬みたい」

サッカー部の練習の合間の休憩中に、マネージャーでも何でもない帰宅部の私はベンチに座ってタオルで汗を拭う立向居に言った。すると頬に汗が伝っている彼の顔は怪訝そうに歪められた。ちなみに彼が使っているその青い水玉の堅そうな繊維のタオルは私からの差し入れだったりする。何故私が差し入れをというと、サッカー部キャプテンの戸田通じで仲良くなった立向居本人からの申し出だ。面倒臭いとか断じて思っていない、断じて。

「いきなりどうしたんですか?」

立向居はそのタオルを片手に首を傾げる。だからその仕草もかわいいんだってば立向居!そう言いたくなるお喋りな口を引き締め、私は改めて口を開いた。

「かわいくて」

あれ。呑み込んだ言葉とあんまり変わらないじゃないか意味のない事を。なんて自分の馬鹿さ加減に失望しつつも本当の事を言ったまでなので訂正やフォローの言葉は添えなかった。立向居だってまあかわいくても男子な訳でかわいいなんて言われてもつまらないだけだろう。でも彼はかわいい。矛盾している。

「俺は貴方の方が可愛いと思いますけど」
「おやおや、お世辞なんかしてくれてありがとうかわいい立向居君」

さらりとお世辞を言ってのけた彼に親指を立てて見せた。意外と彼は恥ずかしげもなく爆弾を落としたりする天然なので流石の私も狼狽えを隠すように流してしまう。可愛いだなんてさらっと言うこやつはきっと社会に出てもかわいがられるんだろうな。畜生、万年無愛想な私にもその特技が欲しい。

はあ、と羨む気持ちを込めた溜め息を落とせば立向居がタオルを首に宛がいながら私の顔を覗き込んできた。彼のくりくりした真ん丸の青い瞳の中に無愛想に無表情な私の顔が映る。うわあ、かわいくない顔。

「具合悪いんですか?」
「え、全然」

不意に溜め息を落とした私を心配してくれたのか、眉尻が下がった彼を申し訳なく思う。ごめん、ちょっと君の性格に嫉妬しただけなんだなんて言えない。言ったところできっと私は空気が読めない馬鹿女に認定されるであろう、視界の端っこに映る戸田やら何やらのサッカー部の連中に。

「本当に?」
「うん」

青い中に私の飄々とした顔が映っている。もう、立向居ったら心配性なんだからかわいいなあ。

「……あの」

立向居のかわいらしい後輩面に表情を緩めたが、一瞬にして固まった。……立向居の先程まで下がっていた眉尻が上がっている。もっと言えば眉根が寄っている。あれ、なんか怒ってる? なんて感じた次、立向居の首を捉えていた水玉のタオルが私の顔面を覆いつくした。ちょっ前見えない!ていうか汗くさい!

「……いきなり可愛く笑わないでください」

照れている彼もかわいいけど、臭い言い分に照れた私も、彼には可愛く映るのだろうか。

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