暑いと言うから暑くなるんだから、暑いとぼやくな。そう言われても暑いものは暑いし、暑いと言わなくても暑いんだ。いや、暑いと言いたくなくても暑いと感じるし、そんなことより取り敢えずアイス食べたらいいと思うんだよね俺は。

「そういう事だからチョコバーで」
「誰も行くなんて言ってないんですけど」

いつものように万事屋へ出勤して質素な朝御飯を作っていた私の隣に、珍しく早起きしたらしい銀さんが並んだかと思えば流れるように冒頭の言葉をぶつけてきた。

私が来て朝御飯を作り、新八が出勤してきて、神楽を起こして、最後に銀さんを起こして、かろうじて神楽は起きるなりトイレ、もう一人は起きないなと思って三人で食べようとして、ついでにスッキリ!を見ようとリモコンを持った頃に漸くのろのろと銀さんが起床。

そんな感じの毎日だったのに何故か今日は、私が台所に立っている時に起きたのだ。具合でも悪いんじゃないか、近藤さんがストーカーを止めたんじゃないか、それくらいに思ってヒヤヒヤしたのに。よく見てみれば、銀さんは寝汗をかいていて、不快そうに顔をしかめていた。ああ、こいつはただ暑くて寝苦しかっただけなんだと悟る。

「チョコバーなかったらスイカバーでもいい。それもなかったらただのバニラでもいいから」
「だから私が行く前提で話を進めないでくださいこのお湯ぶっかけますよ」
「また味噌汁?なんでこんなクソ暑い中味噌汁?」
「味噌をお湯で溶かすだけだから一番安いんだよ働いてこいマダオ!」

貧乏な万事屋の朝御飯に味噌汁は必須であり、今現在私の手元は味噌を溶かし中だ。暑い中、火と闘う私なんて見向きもせずに、この男は甚平からべろんと露になった腹を掻きながらいつもよりひどい半眼で見えない何かを見ている。頼むからもう一回記憶喪失になってほしい。

「シャワー浴びてきたらどうですか?なんか隣に並ばれるとむんむんして気持ち悪い」
「もう少し言い方考えよう?心傷付く単語が整列してるから」

むんむん、むんむん。寝起き独特のほっこりとした体温みたいな、隣に並んだ銀さんからの熱気のようなそれが凄く苛々して仕方がない。ただでさえこの人はもっさりしているから、夏の間くらいはクールビズにしてほしいと何度思ってきたことか。

「髪切れとは言わないんで、レンジャーのお面着けてきてください」
「何で!?顔見たくないってことソレ!!」
「近くで大声出さないでください」

しっしっ、と左手で払うようにしてみせれば、銀さんはあからさまな傷心態度で、心臓の辺りを掴んでいた。そういう反応がうざったい。

何やら隣で喚き散らしていたような気もしたが取り敢えず無視を決め込み、黙々と味噌を溶かす。溶かし終えたら豆腐を入れる。……とうとう明日はえのきだけだ。

仕事の依頼もないし、生活費と食費と家賃ばかりでお金は減る一方。はあ、と溜め息を落とす。そしてちらりと隣に視線をくれてやる。味噌汁を作っている間も銀さんはずっと隣に居て、熱気をむんむんと撒き散らしていた。はっきり言って迷惑なのだけれども、それを言ったらこの人面倒くさくなるからなあ。

「……まだ拗ねてるんですか。謝るんで早く身支度してきてください。ハイごめんなさい」
「謝罪の色こもってねーよ」

律儀にツッコミを返してくれた銀さんは目を伏せながら額に手をやる。憂いが漂っているものの、額の手はきっと汗を拭っているのだろうから、何とも思わない。思えない。
シャワー浴びてきたらいいのに、と内心思いながら着けていたエプロンのポケットからハンカチを出し、銀さんの額に押し付けた。

「そんな汗だくじゃあ外出れませんよ。どうせ今日もパチンコ行くんでしょう?」

流石に苦笑を溢す。銀さんは押し付けられたそれを嫌がりもせずおとなしく受け取り、そのまま額に当てる。そんな姿に心臓がぎゅっと引き締まる気がしたのは、私が女だからだろうか。

「いいよ別に。だって俺今日は外出ねーから。ずっと家に居てやるよ、ずっとごろ寝してやるよ」
「家に居る時はいつもじゃんソレ」

尖らせた口でぶつぶつと子供のように文句を垂らす風には呆れてしまうものの、まあ、ちょっとだけ可愛く見えたので、何も言うまい。

私は味噌汁を沸かしていた火を止め、流し下に取り付けられている棚の中を覗き込む。確認してから、隣で立ったままの銀さんを見上げた。

「買いに行くのはもう少ししてからでいいですか?朝御飯、皆で囲んでから」

すると銀さんは目を丸くし、私と目線を合わせるようにしゃがんできた。その目からは驚きの色だけで染まっていて、この人が普段私をどんな人間だと思っているのかが分かった。腹立たしい。

「昼は素麺にするので、ついでに買ってきますね」

素麺なかったし。そう付け加えて笑った瞬間、銀さんも笑った。何が笑う要素だったのかはさておき、嬉しそうに見えたのでよしとしよう。すると、銀さんの右手にあるハンカチが私の顔面に押し付けられた。

「汗臭ッ」
「もっとオブラートに包めや」

若干湿ったハンカチに眉をしかめると同時にじゃあシャワー浴びてこよ、と銀さんが呟いた。そうして立ち上がった彼は頭を掻きながら私に手を伸ばした。

「俺も買い物ついてくから行く時は呼べよ。いや別に深い意味は全然ないけどねウン」
「ツンデレ?ってツッコミを入れたらいいんですかね私」
「うん、とりあえず黙って」

銀さん、そんなにあついんですか?



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