高校生という響きは最高だ。一番華のある年頃に加えて、自立の言葉が心地好い。 「名前、今日食堂だからね」 「分かってるよ。だからお弁当持ってきてないし」 四時間目の英語の物を机の中から取り出そうとした時、斜め前の友達がにやにやと笑みを浮かべて言ってきた。 今日の昼は食堂で。中学までは食堂なんて普通になかったから、一度は行ってみたいと思っていた。しかし一年生の身で初っぱなから行くのは嫌だなと、とりあえず一ヶ月後にしようとその友達と決めていた。そして、今日がその日。 人生の先輩であるお母さんによると、食堂で一回くらいはカレーライスを食べておけとのこと。だから、今日の昼はカレーライス。 「へえ、お前食堂行くの?」 「えっ?」 突然右耳に声が入ってきてそちらを向くと、阿部君が頬杖をついて私のほうを見ていた。あ、お前って、私のことか。 「そうだよ」 初めて食堂で食べるんだと告げれば、阿部君は眉をしかめた。何か気に障ることでも言ったのかと緊張したが、あまりにもな返答を返されて目を丸くしてしまった。 「食堂って待ち時間長くて嫌いだけどね」 待ち時間長くて食べる時間短いなら、俺は弁当食って購買で買い足すな。そう言いながら彼は足下にあるエナメルバッグからお握り一つを取り出した。 男盛り、と称したらいいものなのだろうか。彼は質より量を求めるタイプらしい。女子ならば見た目の可愛さを求め、小綺麗なカフェへ行きたがる。しかし阿部君は違うみたいだ。 「……何笑ってんの」 「え?あ、ごめん」 意外と阿部君って喋る人なんだと気付くと、思わず笑ってしまった。阿部君はいつも無表情でぼんやりしているから、話すことが苦手なのかと勘違いしていた。 笑われて面白くなさそうに眉間に皺を寄せた阿部君は、私のごめんを聞くと「そこまで怒ってないんだけど」と苦笑を溢した。 「つーか、俺、お前と初めて話した気がするわ」 「……いや、何回か話してるよ」 「マジ?」 「英語の本文読み合わせとか……」 「ンなもん話したうちに入るかよ」 阿部君は授業中いつも眠そうにしているから、あまり記憶になさそうだ。……あれ、そんなことまで忘れているなら、阿部君は私の名前知ってるのか? 「お前、名前なんだっけ」 タイミング良すぎだ。しかもやっぱり知られてなかった。 「苗字、名前」 「あ、苗字ね……多分覚えてる」 「……本当?」 「多分つったろ。自己紹介した時に聴いたかもしれない」 「いやそれ絶対聴いてるって」 「俺そん時寝てたかも」 「最初の授業くらい起きてようよ……」 なんだ、この人。 「あー、腹減った」 私がまじまじと見詰める視線すら気にしていない様子で阿部君はお握りをぱくつく。凄まじい早さで、お握りは米粒一つ残らず彼の胃の中へ。 そして足りねえやらお握りが小せえやらぶつぶつと文句を呟きながら、机の中に手を突っ込む彼。……本当、なんだろうこの人。 「阿部君って、意外と面白いんだね」 「は?」 「いや、もっと無愛想な人かと」 「普通だろ」 そういうお前も意外とハッキリ言うよ、と口角を持ち上げる阿部君に、そうかな、と一緒に笑った。 ≫続きま……すん |