一つ歳上の同級生でクラスメートの浜田君は、勉強がとっても大の苦手なんだって。聞いた瞬間それはそうだよねなんて納得出来てしまう。そんな私は悪い事をした訳ではないし、浜田君だって笑い飛ばした。

でもそれじゃあ私が悪い人みたいだし、浜田君だって分が悪いでしょう?

「え、勉強教えてくれんの!?」

放課後、掃除を終えたり帰る支度をしたりしている波に逆らって私は浜田君の席に近付いた。そうして本題を話してみると、浜田君は大きく目を見開いて私を見詰めてきた。私はうんと頷く。

「テストも近いし、私も勉強したいと思ったから」

すると浜田君はきらきらと眩しく金色に輝いている髪を掻きながら、苦々しい笑みを浮かべた。

「え、でも悪くねえ?俺とお前じゃ力量違うからさ……足手まといになるよなあ」

お世辞やら何やらの類いのその言葉にそれはそうだよねと思ってしまう私は悪くない。取り合えず私は彼の前の席を借りて腰掛ける。

「え」
「何やろうか?あ、浜田君数学苦手じゃなかったけ?」
「あっああああ、うん」
「あ、なんか用事とかある?」
「な、な、ない……けど……」

まだ頭を掻きながら三橋君のようにふらふらと目を泳がせ、曖昧な返事をしてきた。ないけど、何なのだろう。もう一度どうなのか問い掛けようとしてみたけれど、その必要はないらしい。

「あ、じゃあ、やる」

浜田君は机の中から教科書等を出していく。痩せたくしゃくしゃの鞄が足下に落ちていて、きっとテストがあったとしても持ち帰ったりはしないのだろうなと悟る。

ぽつぽつと生徒が居なくなる中、私は借りた席の机をくるりと半回転させて浜田君の机とくっ付ける。そうして私も鞄から物を出していく。筆箱を出した次いでに正面を見上げた。

「どうしたの?」

浜田君が黙って私を見ていたものだからそう聞いてみたが、浜田君は何でもないと目を逸らす。窓からの陽射しで外国人さながら金色が透き通る。私の黒髪とは全く違う輝きを放つそれ。

そこで私は気が付いた。浜田君に代わって今度は私が彼を見詰めていた。浜田君は首を傾げて私を見ている。

「お、俺に、何かついてる?」

顔が赤い気がする。浜田君は少し焼けた褐色肌だから分かりにくい。ぼんやりとその頬を見詰めると、どんどん赤みが増していった。

「……見んな」
「あ、ごめん」

浜田君の右手が伸びてきて、遠近法を活かして私の視界を防ぐ。顔が全く見えなくなってしまった。だから仕方無く私は教科書を開く。

「今日のプリントある?」
「……ん」

左手で渡されるB4のそれを受け取る。確かこれはテストに出るが前提であるから、しっかり頭に叩き入れておかなければ。前を見る。まだ右手は退かされていない。

「……浜田君、ふざけてないで」

溜め息混じりにそう告げると、いや、だって、あれ、としどろもどろな反応が返ってくる。思わずその右手を掴んで無理矢理机にくっ付けた。……浜田君、顔。

驚いて固まってしまう私を余所に、ひどく顔を赤く染めた浜田君が何やら熱っぽい視線を向けてくる。浮かされたような、泣きそうな、潤んだ瞳が私をぼんやりと映している。

ひゅう。息を吸った。

先程とは逆に彼の右手は私の手を握り、左手は机にぴったりくっ付けられ、私の真上から黒い影が差す。見上げれば、きらきらと輝くあの髪の毛が私の瞼に落ちてきた。目を閉じる。

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