お昼は焼きそばパンと滑らかプリンでいいよ。そんな文字が携帯の画面に表れた途端、俺は四時間目の終わりのチャイムと共に教室を飛び出した。

先生からまだ挨拶終わってないから戻って来いと怒鳴られたが、それよりも俺は食堂であれを確保しないと殴られるんですだから見逃して!と声を張り上げながら廊下を走る。

「あ、財布!」

だが結局それを持って来るのを忘れてしまい、教室に逆戻り。慌てて鞄から財布を取り出す間、隣の席の子から毎日大変だねと苦笑されてしまった。しかし大変な割りに意外といい待遇が待っているから、俺はそれでも構わないんだよね。すると隣の席の子が笑った。

「幸せそう」

うん、幸せかもしれない。そう言い残して再び俺は食堂に向かって走り出した。

生徒で溢れている食堂に着くなり、ひょろっこいけど長身が自慢出来る自分の身体を無理矢理通していき、購買のおばちゃんにメールに書かれていたそれらを頼む。焼きそばパンは売り切れちゃったのよ。じゃあコロッケパンにします。滑らかプリンは今日は仕入れてないわ。それなら牛乳プリンでもいいです。いつも大変ねえ、おまけにおばちゃんから飴をあげる。マジですかありがとうございます!そうして2年4組に飛び込んだ。

「先輩!」

頼まれた品とは大分違うけど仕方無いだろうとそれらを抱えて、先輩に向かって手を振る。準さんの隣の席に座っている先輩が「ああ仲沢君」と惚れ惚れしてしまうハスキーな声で振り返してくれた。ただそれだけの事なのに、あの可愛らしい笑顔を魅せられてしまえば、もう舞い上がってしまう。

「利央、お前毎日やるなあ」

呆れたような声音を浴びせてくる準さんに取り合えず笑顔を返し、先輩の机の上にそれらを潰れないように丁寧に置く。途端先輩の顔から笑顔が消えた。

「頼んだやつと違うけど……」
「すんません!なんかどれもなくて」
「私牛乳アレルギーなんだ」
「えっ!?」

申し訳なさそうに眉を八の字に垂らす先輩を思わず見詰めてしまった。すると先輩はそんなに凝視しないでよ気味悪いと言いながら俺の腕をぺちんと叩いてきた。全然痛くないそれに胸がきゅうんと締め付けられる。

「お前嘘つくなよ……普通に牛乳好きじゃん。利央だって知ってるだろ、昨日牛乳買って来させられたのに」

あれ、そうだったっけ!?その意味を込めて先輩を見てみる。先輩は笑顔を浮かべて首を傾げた。

「そうかも」
「ちょっ、先輩ひど……!」
「でも仲沢君が悪いんだ。だって私今日は牛乳の気分じゃない」
「コロッケパンはいいのかよ」
「コロッケパンは好きだからいいや」
「お前……」
「コロッケうまいよね」

あれ、あれあれ、あれえええ?なんか先輩と準さんが俺を抜かして話始めてしまった。ちょっと待って、俺の事を忘れないで!ちゃんと俺を見てくれよ先輩!

しかし二人の間に立ち入るなんて俺には出来ない。どちらも俺にとって大切な先輩だし、準さんにはお前面倒臭いと言われるのが落ちだし、先輩には仲沢君のくせにと睨まれるのが落ちだし……ああもう、俺は先輩の為に毎日この教室に足を運ぶのに!毎日先輩と会いたいからなのに!

「仲沢君ぶすっとしてどうしたの。顔がとっても不細工」
「……だって、先輩が……!」

小さく口元を引き上げて俺を見上げる先輩に口を尖らせる。何だかいつにも増して先輩が凄くひどい事ばかり言ってくる気がする。……不細工って……。泣きたくなってしまった。先輩がそういう意地悪な人だなんて百も承知だけれど、俺への対応が本当に、雑だ。

しかし、それでも俺は構わない。何せ俺が泣きそうになると先輩は決まって困ったような笑顔で言ってくれるのだ。

「ちょっと可愛いからいじめただけよ。仲沢君、ありがとう。また明日もよろしくね」
「はい!」

また明日も会ってくれると先輩から聞けるだけで、俺はもうお腹いっぱいなのである。

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