男も女も関係ないあの頃から、私と隆也はいつも隣合わせだった。いつまでも隣に居たいのは本音だけれど、やはり異性である事が隙間を作る原因になるのだ。

小学生の時はいつも一緒に走り回ったり、キャッチボールをしたりしたけれど、互いに同性とそれをするようになったのは、いつからだっただろうか。気が付かない、というよりは気が付かない振りをして、漸く振り向いた頃にはもう高校生になっていた。

「野球部の阿部君、ちょっとかっこよくない?」

同じクラスで無部だからと何気無く仲良くなった友人との放課後の帰り道、そんな事を突然持ち出された。

お互いに地区が同じである事も気が合うねと笑い合い、徒歩で共に帰路に着くその途中、思わず歩む足を止めて友人を見詰める。どうしたのよと首を傾げるその姿に、私は眉を寄せた。

「あんな奴やめといた方がいいよ」
「なんで?」
「明らかに彼女より野球優先しそうじゃないの」

今までの私が知る隆也には、彼女なんて浮ついた噂も影も全くと断言してもいいほどなかった。隆也は本当に野球を第一に考えて生きている野球馬鹿なのだ。いつもキャッチボールしては下手くそだと怒鳴られたものである。野球部の人達は大丈夫だろうか。

同じクラスの栄口と巣山が笑いながら阿部は面倒臭い奴だなんて時々聞こえてくるから心配だななんて思っていると、口角をいやらしく引き上げている友人が視界に飛び込んできた。

「何その顔、気持ち悪い」
「そういえばさあ、あんたって阿部君と同じ中学じゃなかった?栄口もそうだよね?」
「……ああ、そうだけど」
「阿部君と話したことあるの?」

探るような視線が少しだけ目障りに感じ、再び足を前に進めながら少しだけあるよと返す。慌てた彼女からちょっと待ってよなんて言われて仕方無く立ち止まり、振り返る。

紹介してくれ?冗談じゃない。彼の事を教えてくれ?教えたくもない。いくら仲良くなった友人だからといって、そういう手助けは出来ない。

友人には悪いけど私は手伝わないとはっきり示したが、彼女は別にそんな事どっちでもいいんだけどとおかしそうにけらけら笑う。……なんで笑うんだよ!

「なんか、必死だね?」

そんな馬鹿な。


あれからいつもの他愛ない話をしてそれぞれの家へと着いた。コンビニの新作のデザートのあれが美味いだとか、数学についていけないだとか、そんな話をしていたけれど、私の頭にはどうも隆也の事ばかりが浮かんできた。隆也だったらデザートよりお握りだよなとか、野球に支障を出さない為に授業は真面目に受けるよなとか。私の中では話がいいように組み替えられていく。

そういえば最近は隆也と顔を会わせていない。お互いというよりも隆也が忙しそうだから会う機会もなかった。馬鹿みたいに野球の事を優先しているような奴だから仕方無いのだけれど……せっかく、同じ高校に進学したのに、これではあまり意味がないじゃあないか。淡い期待をするだけ無駄らしい。

二階の自分の部屋に入ったらまず鞄を机に上げて、ベッドに腰掛ける。スカートのポケットから携帯を取り出す。あれ?メール受信──あ。

「阿部、隆也……!」

ディスプレイにはその四文字が浮かび出されていた。い、いつ振りだろうか……高校入ってから以来だったような気がする……というか、め、メール、見なきゃ……!!

「明日朝練ないんだ、け、ど……って」

え、上から目線?なんて一瞬思ってしまったが、久し振りに二人で登校出来るんだと考えてみれば私の返信は一つしか浮かばなかった。

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