馬鹿は風邪引かないんじゃなくて、馬鹿だから風邪引いたらことに気が付かないんだよ。え?悪い事なんか言ってないよだって事実だから。ね、榛名少年。

そう言った時のあいつのあの自信満々のどや顔を、俺は決して忘れない。つうか忘れたくても事情が事情で、鮮明に蘇ってくる。

「おうおう、無様だね榛名」

今朝からなんか身体が重い気がするなんてぼやきながら制服に着替えていたら、なんか知らないがねーちゃんのワイシャツに手を通していた。

普通に考えて俺では小さすぎて何もかも丈が短いし前閉まらないしで、あれ?おかしいななんて首を捻った時、白けた態度のねーちゃんから渡された体温計で計ってみると37.6という文字が液晶に羅列していた。マジか。

あんた馬鹿でしょと母さんとねーちゃんに揃って言われて、早くそれ脱げよとねーちゃんに怒られて、今日は学校休みよと母さんに呆れられて、秋丸にメールしたら言う通りになっちゃったじゃんどんまいと返信されて。

そうだ、秋丸が悪いんだよ。俺があのむかつく顔をしたあいつの言葉を今になって思い出したのは、秋丸のメールのせいだ。マジ秋丸明日絞める。

半ばやけくそになって秋丸に明日は背後に気を付けろよなんてメールして、返ってきたメールには『じゃあ榛名が休む事あいつに言っておくよ』と。

……え?

気が付けば俺は眠りこけていたらしく、はっと目を覚ませばもう午後四時だった。やべえ薬も食い物も食わねーで寝てたわなんて思いながら居間のソファーに横たわっていた上体を起き上がらせた時だ。

そこで冒頭の「おうおう、無様だね榛名」に戻る。

「秋丸から聞いたよ、何、風邪引いちゃったんだって?ぷぷー」

完全に労る気も隠す気もない目の前の女が愉快そうに笑う。てめー秋丸本当に言いやがったな、やっぱお前明日絞める。

目の前の奴のむかつく笑みと秋丸に募る苛立ち以外にぼんやりと曇っている頭の中で、なんで俺は居間で寝たんだと考える。

「おばさんがあんた重いから寝かせとけって。榛名、朝からずっとソファーで寝てたんだ?」
「……母さんは?」
「買い物。私来たから丁度いいって留守番に使われちゃった。ねえ榛名」
「あ?」
「冷蔵庫のプリン、あれって滑らかプリン?」
「ああ?……そうだ、昨日買ったやつ」

そういえば部活帰りにコンビニで買った事を思い出す。熱出した時はプリンかゼリーに限るな、タイミングいいよ俺って。

今食うしかねーだろ。どうせまた寝たらこいつかねーちゃんの腹の中で消化されてしまう気がする。そう思って立ち上がったら不意に腕を捕まれた。

「なんだよ」

ソファーに肘をついてフローリングに座っているあいつと目が合う。捕まれた腕からこいつの手の冷たさが一気に全身を血のように廻って気持ちいい。

「食べちゃった」

空気が時計の短針のカチカチと動く音だけに包まれた。え、今、こいつ食べちゃった?

「でもあれあんま美味しくなかったよ。やっぱプッチンプリンに勝る物はないよ、榛名」
「……おまっ、ふざけんなよ!何食ってんだ!あれ結構高かったんだぞ、金ねーのに買ったんだぞこの俺が!」

人のプリン食った上にプッチンプリンの方が美味しいだと?マジお前ふざけんのも大概にしろよ、つうかお前なんでうちに居るの?お前の家はこのマンションの七階だろ。俺の上だろお前ん家は。ああ苛々する早く帰れ自己中心的くそ女。

「だからプッチンプリン買ってきてやったよ感謝しろよ榛名」
「お前マジいい奴だな」

そういえばこのやり取り、一年くらい前にゼリーでやったかもしれない。

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