花井は照れ屋なんだよと水谷君が言った。

然程気にもしていなかった私はへえと適当に相槌を打った時、水谷君は花井君に殴られた。真っ赤な顔をした花井君は照れているのか怒っているのか私には分からなかったけれど、水谷君どんまいとだけはちゃんと理解した。

「花井ひどい!手加減なしだったよね今の!」
「お前がペラペラ好き勝手言うのが悪いんだろ!」
「好き勝手じゃないだろ、本当の話で、っ痛い!」

バシンという音の拍子に茶色のふわふわした髪が揺れた。うわあ水谷君どんまい、なんてその光景を見ながら思う。でも水谷君も悪いよね、勝手に花井君の話をし始めるから。誰も聞いてないのに。

「ていうか、花井君がツンデレなのは私知ってるよ」
「いや俺そこまで言ってないけど」
「あ、水谷君の頭に虫が!」

バシン。今度は私の右手が水谷君の頭を揺らす。人の揚げ足を取るんじゃあありません!

水谷君が三度も叩かれた事でぶつぶつと文句を垂らしているのを横目にしつつ、私は顔を真っ赤にしている花井君の方に顔を向けた。坊主な花井君は顔を隠すなんて出来ないから、赤い顔をただただ晒している。ちょっと可愛いなんて思ったり思わなかったり。

「花井君はツンデレだよね」
「は、はあ?お前ふざけんなよ」
「照れんなよ、俺とお前の仲だろ」
「何キャラだよむかつくんだけど」

顔は赤いままだけど花井君は眉間に皺を寄せて怒ったように私を睨む。言葉はツンツンしているようで顔は真っ赤にしている所がデレデレなんだよ花井君と笑い混じりに言うと、私の代わりなのか水谷君が再び叩かれた。すまん。

「うるっせーんだよお前ら!なんで二人で俺の前で話すんだよ止めろよ、頼むから俺の視界に入らないでくれ」
「ヤキモチは醜いぞ花井君」
「ヤキモチじゃねーよ!」

今度は容赦なく私の頭が叩かれた。パシン。痛いよこの野郎!

「花井君が叩いた!キャプテンが暴力、これはシガポに報告しなければ!」
「お前とりあえず黙れ頭痛い」

わざとらしく頭を擦りながら吠える私に、花井君は頭を抱えて溜め息を落とした。おおい、そんな長くてでかい溜め息なんかしたら幸せどころか明日命絶っちゃうかもよ。

花井君は絶対過労死すると思うよと言えばじとりとした重たい目が向けられた。そして目の前で溜め息を吐かれてしまった。

「お前のせいで過労死すると思う」
「あ、私照れたらいい?」
「聞くなようぜェ」

いつの間にか花井君の顔色はいつものやつに戻っていて、それを見た私は試しに言ってみようと目論んだ。近くで水谷君が痛い痛いと煩かったから、黙れという意味を込めて寝ている阿部君の所に無理矢理押した。そして私は花井君の目を見て、こう言う。

「花井君が照れてるの、私好きだよ」

すると彼は期待通りに顔を赤く染めて私を叩くのだ。

「うるせェ」

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