少なからず俺はすぐ前の席の女子が気になっているのだと思う。大して口を交わした事もないのだけれど。 特に机に俯せてゆっくりと規定の速度で上下しているそれを見ている時が、一番胸の締め付けがひどくなる。 後ろ姿が格段に綺麗という訳でもない。ただ面積の小さい背中が気になるのだ。男の俺とも違い、当たり前だが野球部の背中とも違う。女らしい丸みを帯びているのに、華奢なその背中に夢中。 今も彼女は机に俯せて小さな呼吸を繰り返す。普段ならば授業中だと伏せる事はないのに、今日は違った。 疲れているのだろうか、具合が悪いのだろうか。いつもと違う彼女の背中に、俺の頭はそんな事ばかりが渦を巻く。 「おい高瀬」 突然聴こえた名前にはっとして焦点を黒板の方へ定めると、この授業の教科担任が呆れたように俺を見詰めていて、手元の教科書を掲げて見せてきた。 「具合でも悪いのか?顔が青いぞ」 「え、いや……」 ……彼女より俺が具合悪かったのか?でも確かに何か身体が重い気もするし、頭もぼんやりしているかもしれない。重めのデッドボールを太腿に喰らったような、鈍いけど確実に痛い。俺は至らず立ち上がる。 「すいません、保健室行ってもいいスか」 「お大事にな」 放課後は勿論部活があるし、具合が悪いのなら早めに治しておこう。 そのまま彼女にちらりと目を向けてみたが、やはり机に伏せてじっとしているだけだった。そこで少しの不安と下心がむくむくと芽生え、気が付いたら彼女の腕を掴んでいた。流れで立ち上がった彼女は、俺に顔を向けなかった。 「こいつも具合悪そうなんで、連れていきます」 教科担任のああという声を背後に、俺は掴んだ細い腕を引っ張った。 * 教室の扉を閉めた所で俺は気が付いて手を離した。ずっと腕を掴んだままだった。 「わ、悪い」 そう声を掛けると彼女はふるふると首を左右に振った。そして小さな声で大丈夫と呟いた。それに俺は、うんという微妙な返答をした。彼女の腕を掴んでいた手が熱い。 「……いきなり引っ張ってごめん」 「え?」 「具合悪そうに見えたから」 すると今日初めて目が交わった。くりくりと丸く見開かれた双眸の中に俺が映っている。その表情は何とも言い難い。緊張しているのか下心満載なのか自分でもよく分からないように、引き締められている。 思わず瞳の中の自分をじっと見詰めていると、彼女の睫毛が影を作った。見すぎてしまったらしく俯いてしまった。まずい。 取り敢えず保健室に行こうかと溢し歩こうとした時、不意に腕を捕まれた。俺の腕なのか彼女の手なのか分からないけれど、触れた部分が熱く蒸された。 「あの、ちょっと具合悪いかも」 「あ……じゃあ、保健室」 「タイミングが分からなくて、無駄に頭使ってたみたい」 「え?」 「誕生日、おめでとう」 確信犯なのか分からない。このタイミングでそんな事を言われるなんて、意識する以外に何が存在するのだろうか。 |