久々の積雪に足を滑らせ豪快にすっ転んだ。雪国でないから冬用の靴なんかなくていつものスニーカーを履いていたのも原因だろうとは思ったが、流石にそれだけの所為ではなかった。

車に押し潰されててかてかと光るような道だがそれだけでは滑るなんて有り得ない。そのてかてかは押し潰されただけでありつるつるしている訳ではないのだ。見た目こそ滑りそうに見えても案外滑らない。

……それなのに、俺は思い切り滑った。ケツ強打してしまった。

その瞬間背後でパシャリと嫌に軽い音が聴こえてきてこれは完全に嵌められたのだと悟り今に至る。

「てってれーん、ドッキリー」

俺を不吉な目に遭わせてくるのは大体決まっている。今日はどっちだと顔を後ろに向ければ、いの一番に白い携帯が目に入った。パシャリ。

「おい」
「さがるん半目頂きました」
「おい」
「沖田に送ー信」
「おい」
「あれ?……あの野郎受信拒否してんじゃねーかァ!!」
「おいィィィイ!!」

同じくらい声を張り上げれば奴は顔を顰めてわざとらしく耳を塞ぐ。その姿に苛々が募りながらも俺は立ち上がり、奴を睨み下ろす。畜生、沖田君じゃなくてこっちかよ!いやどっちにしろ腹立つけどこっちの方がなんかむかつく!沖田君だったら有無を言わせてくれねーもん、逆に睨まれて終わりだもん、俺何も悪い事してないのに!

つうか朝っぱらからなんなんだこの無意味な襲撃は。なんかケツ異常にびっちょびちょに濡れてるんだけど、コイツ水撒いたんだろ!そう捲し立てると白い携帯をコートのポケットに突っ込んだ苗字がウンと真顔で頷いた。

「危ないだろ!何水撒いてんだよ季節考えろ!」
「季節は考えてるよ。ちなみに水じゃなくて桃の天然水ぶちまけちゃって」
「ほぼ水じゃねーか!つうかお前何やってんの!?」

なんでコイツが俺の登校中に出会うんだ。そもそもコイツは遅刻ギリギリに登校するような女で、俺の家とは真逆に住んでいる。学校までまだ距離があるこの住宅街で、そんな奴を朝から見掛けるなんて絶対有り得ない事だ。

「お前ん家って真逆だよね?なんでこんなとこに」
「ああ私引っ越したんだよね」
「見え透いた嘘ついてんじゃねーよ」
「嘘じゃないよ、マジで」
「わざとらしいんだよその顔。なんでどや顔?俺にどんな反応して欲しいの?」
「つまんない野郎だ」
「……」

だるっだるの腰パンをした男のようにペッと唾を吐き捨てる姿にやはり苛々が募る。なんなんだコイツ。俺をそんなに苛々させて何が楽しいんだ。

ガムの空を綺麗に元通りにしてあたかもガムありますみたいな感じでゴミ渡してきたり、土方君の悪口無理矢理言わせて録音してみたり、昼飯のデザートにと買ったロールケーキを解体して一本の棒状にしてみたり。考えてみればそれ全部昨日の話だ。どんな暇人だよコイツ、俺凄いコイツに構ってやってるんじゃん。

「山崎は駄目だね」
「知らないうちに受信拒否されてる奴に言われたくねーよ」
「ねえ山崎」
「なに」

すると彼女はカチカチと携帯を弄りながら俺に顔を向けた。そこで俺は一つの仮定を組み立てる。

なんで彼女が遅刻ギリギリ登校でないのか。なんで苗字が俺の登校に居るのか。なんで彼女が朝っぱらから俺に突っ掛かってくるのか。そして今日は何の日だ。そうだよ、俺、誕生日。

「チロルチョコとうまい棒だったら、どっちがいい?」
「……じゃあ、チロルチョコで」

おめでとうの言葉なんて絶対聞けないし、大したプレゼントだって貰えないし、意味の分からない悪戯してくるし……それでも、それがコイツなりの祝い方だと目を瞑ろう。

「あ、じゃあチロルはバレンタイン兼用でオーケー?」
「いやチロルなら兼用しなくてよくね?」

どんな誕生日プレゼントだ。

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