長期間休みの後に会うクラスメイトは、何だか前と違ってみえて気恥ずかしくなってしまうものだ。

「山崎、休み利用してタイムスリップしてきたの?」
「なんでそんな旅行してきた?みたいに軽く言うの」
「いやだって、なんか前と違う」
「…………」

今さっき登校してきた私は鞄を机に着地させたと同時に隣の山崎に違和感を覚えた。山崎は休み前から隣の席で、休み明けもそれは続いている。

私が知る前までの彼はもっと繊細で優しかった筈なのだが、完全にいつもより背後に背負うオーラが違った。

俯き加減に加えて銀八先生のような死んだ目をした山崎に疑問を抱きながらも、私はそのまま椅子に腰を掛けた。

「何、課題終わらなかった?」
「君じゃないんだから」
「後で見せてね」
「さっき沖田さんに盗まれた」
「沖田あの野郎!」

畜生、通りでいつもうざい程絡んでくる野郎が大人しく席に着いていると思ったら、あの野郎課題写してやがったな!

沖田からそれを奪う力が私には無さすぎて、逆に写すのを手伝わされる事など目に見えている。課題家に忘れてきたって事にしよう。

「山崎はどっか遠出とかした?」

鞄から出した物を机の中に突っ込みながら、私は問い掛けた。その途中で落とした生物のノートを山崎が拾って渡してくれた。

「……行く暇なんかなかった」
「そっかァ。私もね、行きたかったんだけど妹が受験生でさァ、アンタに付き合ってる暇ないんだーってクソババアに言われちゃって。もうマジ兄弟とかいらない」
「妹はどこ受験?」
「金魂高校だってしねばいいのに」
「ああ、頭良いんだ」

金魂とか卑猥な名前してる癖して都内でそこそこ頭良い学校なんだよね。まあ、ほら、妹とか弟の方が頭良いとかそういう噂あるからね。私はそれを信じてる訳じゃないけどね。うん、信じてる訳じゃない。

机に上がっている生物のノートを最後に机の中に入れて、鞄を机の横に引っ掛ける。あ、そういえば筆箱新調したんだ。

「見てこれ、新しくしたんだ」
「……何これ」
「マイメロ。サンリオのキャラクター」
「サンリオ……」
「キティちゃんの」
「俺はキティちゃんのが好きだけど」
「んな事聞いてねーよ」
「はは、だよね」
「…………」

顔を顰める。へらへら笑っている山崎にやはり違和感を覚えた。どうしたのだろう。長期間休み明けだから照れているのかな、それだとコイツ可愛くねーかやべぇ。……いや、でもなあ。

首を捻っている私に、笑みを消した山崎が三白眼の癖に黒目を泳がせて「それ」と何かを指差した。何を指差して……なんて一瞬思ったが、すぐに気が付いて自身の髪を触ってみせた。幾分か短く切り揃えられたそれについて、とうとう聞かれたかと恥ずかしくなる。

「どうかな?」
「うん、あれ、うん……うん」

ぱっと私から視線を逸らしたかと思えば掌で顔を覆い隠してしまった。え、何、それ。

「……山崎?」

心無しか鼻を啜る音がして、私は慌てる。そんなに私の髪型が気に食わなかったのだろうか。いやでも、私は、アンタが短い髪の毛の私を見たいって、そう言ったから──。

「……なんで、俺については触れてくんないんだよ。遠回しに触れてきてるんだよなそれって」
「ええ?そんな、私そんな風に思ってないよ!え、山崎なんか変わった?私にはいつもの山崎だと思うんだけ」
「弁髪頭した奴がいつもってどんな交友関係なんだよォォォ!!」


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