正直、なんで私がこの場所に立っているのかすら分からない。

「た、たじ……」

田島君。そう呼び終える前に田島君は跨がる自分の自転車の荷台を顎でしゃくり示し、私に向かってニッカリと向日葵のような笑顔を見せてくれた。

ただそれに応えることが出来ない私は胸元に抱える鞄をぎゅうと握り締め、辺りを見渡す。もう部活が終わり、空は赤い。

周りには各々登校したであろう時の姿をした野球部の人達が私を見ている。自転車だったり歩きだったり、車で帰ってこの場にいない人もいる。何となく波長が合う三橋君は用事があるとかで先に帰ったし、優しい西広君も千代ちゃんもいないし……。

「早く帰りたいんだけど」
「!!」

(ああああべあ、べ、阿部君が私を睨んでる!ででででも、私、そんな……。)

「わた、私、重いっ……から!あの、歩いて……」
「大丈夫だってー!」

阿部君に感化されたのか田島君が自転車から降りて私の手を引っ張ってくる。だけど、私、恥ずかしくてそこの、あの、荷台に乗りたくないというか……。そもそも、歩いて帰る人もいるから、私だって歩いてもおかしくはないと思う。

「お前歩くの遅いし」
「ひっ」
「……なんで泣きそうになってんの」
「阿部の言い方が悪いんだろ」
「阿部が泣かしたーっ」
「泣いてねーだろ!」
「お前ら煩い!」

私を囲んで喧嘩し始めてしまった阿部君と泉君と田島君を呆れたように怒る花井君。もしかしなくても私が悪いんだけど、出来れば離れて喧嘩してほしい気がしないでもないです……。

がっちりと周りを囲まれたままだと流石に居心地が悪くて、抜け出せないかとキョロキョロ見渡していたら巣山君が手招きしてくれていた。花井君と阿部君の隙間を潜るように抜け出せば、巣山君が前方を指で指し示した。

「行くか」
「あ、ありがとう……」
「栄口、帰ろ」
「だなー」

自転車の二人は私を気遣ってくれているのか、自転車を押して歩いてくれるようで。そんな少しの事だけど、嬉しくて。思わず顔が緩んでしまった。

ぎゅうと鞄を抱き締めて二人の後ろを付いていこうと歩き出そうとしたら、自転車を押してきた水谷君が私の隣に並んだ。

「苗字ん家、意外に俺ん家近いんだよ」

水谷君家と……。

「そ、うなんだ?」
「うん。この前しのーかから聞いちゃった」
「千代ちゃん……」

知らない所で話されているのは少し不満に感じたけど、水谷君が笑っているからまあいいかなと。水谷君は優しいし、笑顔も可愛い。……阿部君は、こわいけど。

「ね? だから今度部活ない時俺と帰」
「何してんたよ水谷」
「!!みっ……」

思いきり叩かれた水谷君に驚くと、阿部君が割り込むように私の隣に。彼は巣山君達と違い、自転車に跨がったまま。

「早く帰りたいから乗れよ、後ろ」
「ひっ」
「阿部ずりーぞ!!」
「そんな覚えないんだけど」
「煩いっつってんだろお前ら!」

…………帰りたい。

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