田島君が購買のパンを買うと言ったので泉君と三人で食堂に行ってみると、マネージャーの篠岡さんが居た。

「篠岡!……ん、そっちは友達かー?」

購買のカウンターの辺りで列を作っている最後尾に篠岡さんともう一人、女子が居た。篠岡さんの隣に居るのに、何故か隠れるようにしながら俺達を窺っている。
その姿に、不謹慎ながらも何と無く親近感のような何かを覚えてしまった。

「うん!苗字名前ちゃん」
「苗字か!俺は田島悠一郎!」
「よ、よろしく……」

篠岡さんの腕に絡み付いて田島君を見ている。田島君はそんな彼女にお構い無しなのかグイグイと顔を近付けてニコニコ。苗字さんは顔を青くしている。

(お、お、怯えてる、んじゃ……)

「田島ァ、怖がってんだろー」

どうしようかとおろおろしていると頼りになる泉君が田島君の背中を引っ張って離れた。苗字さんの方を見てみると安堵したのか、篠岡さんに絡めていた腕の力を抜いたようだった。

篠岡さんはニコニコしながら苗字さんを見下ろして……あれ、苗字さん、小さい。俺と並んでも肩より下くらいなんじゃないか。

「三橋も苗字に自己紹介したらどうだー」
「う、ひっ」

驚いて顔を上げると泉君が手招きしている。その近くには苗字さんが居て、俺をじっと見詰めていた。

「う、あ、おっ俺……」

やばい、全然声が出ない。吃れば吃るほど恥ずかしさが増していき、自分の名前まで辿り着かない。

ぶわ、と三度くらい上がったんじゃないかと思うくらい身体中が熱くて、声に出来ない声をごもごと詰まらせていると、苗字さんが口元に手をやって震え出した。(え、ま、泣いっ……泣いて、る!?)

「名前ちゃん、笑いすぎ」
「ご、ごめ……」
「お前面白いなあ!!」
「ひいっ!」
「ちょ、田島君!!」
「田島ァ!!」

篠岡さんの腕に絡み付く苗字さんに横から抱き着く田島君に、泉君と篠岡さんが驚いて声を張り上げた。

(た、田島く、やりすぎ……!)

苗字さんの顔はトマトのように真っ赤で、泣きそうに瞳を潤ませている。なんか、熱出した時みたい。

「篠岡と一緒にマネージャーやらねー!?」
「っや、わ、私には無理! 無理、です!」
「えー」
「田島いい加減に離れろ!」
「田島君!」

購買どころじゃなくなった雰囲気に、俺はただおろおろと目の前の四人の光景に慌てるだけだった。

(結局、名前、言えなかった……)

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