試合を見るのに飽きてしまった俺や田島や水谷は、この場で氷オニをやろうと提案した。

「三人って少なくね?」

じゃん拳だと田島が高らかに右拳を掲げた時、何気なく思った俺はそう呟いた。水谷から同意のような微妙な相槌が返ってくる。

「でも他の奴はやらなさそうじゃない?」
「うちの野球部って意外に真面目多いよな」

氷オニやる人、手挙げて!そう言ったとしても挙手しそうな奴はいないかもしれない。苦笑したり怒ったり呆れられたりする奴は多そうである。氷オニ燃えるのに、勿体無い。

水谷と二人で無理矢理三橋混ぜてみるかと話す傍ら、にやけた田島が肩をちょいちょいとつついてきた。なんだと目線をくれてやれば、田島はスタンドに座っている二つ結びの黒髪の背中を指差した。

「苗字!」
「はあ!?」

確かにあの後ろ姿は苗字以外の何者でもない。苗字はたった今斜め後ろの花井に話し掛けられ、おどおどしく対応している。明らかに運動神経のなさそうな、しかも女。そしてあの性格の苗字。

「いや、普通に考えて無理だろ」
「あいつは断らないって自信あんよ!」
「そりゃ俺も思うぜ?でも、あの苗字だぞ……」

絶対運動神経ないから鬼になってばかりなのではと俺が溢した時、水谷が大丈夫じゃないのと適当な発言をした。何が大丈夫だふざけんな、もし苗字が何回もタッチされて凍ってばかりで泣いたらどうするんだ。というかあいつにタッチするの?触るの?なんか逆にやりにくくねえ……?

ふと苗字を見る。変わらず花井と談笑していて、時折手を口元に持っていき小さく笑う。ジャージから覗く手やら首は、陽に当たっているのかと思う程白い。長袖だから分かりにくいが、肩だって細いだろう。元々見た感じ身体の幅が薄い。いや、でも薄いのに割りと、こう……。

「泉?」
「っあ、いや別に」

自分の胸元で何かを表すように動かしてしまった手を引っ込める。水谷から不審な顔付きで見詰められている。うぜえな、男なら誰だってそれくらい考えるだろ!

ぎっと睨めばぴくりと眉尻を動かした水谷は「まあそれは置いといて」と話を切り替えた。多分あれは図星からくる行動だと見て間違いはないだろう。わざとらしくふんと鼻を鳴らせば、水谷もわざとらしく咳払いをしてきた。

「とにかく、苗字はああ見えて運動神経いいよ」
「「え?」」

不意打ちのカミングアウトに俺と田島は目を丸くして間抜けな声を発してしまった。なんでそんな事水谷が知っているんだと聞こうとして、止めた。そういえば水谷は苗字と同じクラスだ。

「体力ないけど、足は速いよ」
「へえ!」
「……まあ、逃げ足は速そうだしな」
「つうかなんで体力ない事まで水谷が知ってんの?」

今度は水谷が目を丸く見開く番だったらしい。

「体育で鬼ごっこしたから!本当、それだけだから!」
「水谷、お前今日テンション高くね?」

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -