隣の席の篠岡さ……千代ちゃんに、話し掛けられてしまった。決して嫌な訳ではない。寧ろ凄く嬉しい。こんな愛想もなく話し掛け難い感じの私に挨拶をしてくれるなんて、本当にいい人だと思う。

「名前ちゃんって、家どの辺?」

朝に挨拶を交わしてから、私と篠お……ち、千代ちゃんは、ずっとお喋りをしていた。流石に先生が来たらお喋りは中断したけれど、たまに私の身体をつついて笑い掛けてくれた。それに釣られて私も笑い返せば、千代ちゃんはもっと顔を和らげてくれた。お昼を二人屋上で済ませた後も変わらず私に話し掛けてくれる。本当に、可愛い。

「えっと、徒歩で……四十分、くらいのところ」
「徒歩なの?」
「のんびり歩くの、好き」
「そっか!じゃあ、これから一緒に帰らない?私電車なんだけど……あ、でも私部活入るかもしれないや」
「だ、大丈夫!部活休みの日、言ってくれれば、あの……」
「本当!?」

(や、やった……!これから千代ちゃんと一緒に帰れるんだ!これって、友達、になるんだよね。私、千代ちゃんと仲良し……!)

高校に入ってすぐに仲良くなれた子がいるなんて嬉しすぎて思わず拳を握り締めると、千代ちゃんに笑われてしまった。恥ずかしくて拳を解いたけれどその手を千代ちゃんに握られた。驚いて千代ちゃんを見ると、私に柔らかい笑顔を向けていた。

「私、名前ちゃんと隣の席になれてよかった」
「う、えっ……!?」

突然の告白に体温が上がった気がした。顔が熱くて無意識にそれを隠そうとするのだが、両手共彼女に握られていて隠せない。真っ赤であろう自分の顔が恥ずかしくて、恥ずかしくて、目がぐるぐる回ってくる。おまけに脳内もパニック状態で、逆上せたように重たく感じる。

「名前ちゃんの反応すごく面白いの」
「お、おもしろ……?」
「うん!本当に一生懸命考えてくれてる気がするんだ。話の内容も、私の事も、応えようとしてるのが伝わってくるの」
「っ」
「こんな事言うのも変だけど、名前ちゃんの一番仲良い人になりたい」
「!」

顔がにやけそうになるのを必死に抑えようとするが、上回る感動には敵わなかった。じわじわと寄せてくる波に溺れた。

「名前ちゃっ……」

「わっ私、で、良いなら……!あの、えっと……」
「顔、ぐちゃぐちゃだよ」
「う……」

千代ちゃんの力が緩んだ隙に両手で顔を覆い隠す。目の辺りが熱い。肌と肌がびちゃりとくっつきそれが気持ち悪くて、カーディガンの袖で力強く目元を擦る。目が痛い。

「涙もろい?」
「ちっちがっ……!」
「でも、私は喜んでもいいんだよね?」

ニコニコと可愛らしく微笑む彼女から視線を背けながら頷いた途端、身体が別の体温で包まれた。私の視界の端にふわふわと甘い香りを漂わせる短い茶髪が見える。

「名前ちゃん、可愛い」
「うあ、あ、あああのっ……」

何処にやればいいのか分からず宙ぶらりんだった両手で、恐る恐る彼女が着ているセーターの脇腹辺りを掴む。彼女同様に背中に手を回すなんて、私には出来ない。恥ずかしくて死ぬ。

そんな私にお構い無しに、背中に回された両腕がぎゅうぎゅうと締めてきて、余計に私は破裂しそうだ。女の子同士だからいいものの、やはり恥ずかしさは拭えない。まだあまり人のいない屋上だから良かったけど。

「……名前ちゃん」
「は、はい」
「ふにゃふにゃして柔らかいね」
「っ!」

それは遠回しに太っていると言われているのだろうか。痩せた方がいいのかもと小さく呟くと、いきなり千代ちゃんが笑った。

「充分痩せてるよ」
「で、でも……」
「マシュマロみたいで癖になるかも」
「!」

やっぱり私は太っているんじゃ……!

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