隣の席の苗字さんは入学式も翌日もずっと、一人で本を読むか勉強しているかだった。不思議な子だなあと思った。

凄く大人しくて、言動も態度もおどおどしている。そういう子って女子か男子に無条件で嫌われたりするんだと今まで思ってきたけれど、彼女は違った。自己紹介をしてから彼女はよく話し掛けられているようだ。

でも話し掛けられる時意外では黙っているから隣の席でも話し掛ける術が分からなくて、どうしてこの子が隣になっちゃったんだろうと心の中だけで愚痴を溢していた。

……でもそれじゃあ駄目だと思って。折角隣になったのも何かの運命なんだって。私は彼女に話し掛けてみようと決心した。



そうして入学式から二日目の朝、私は昨日より早く登校して苗字さんを待ち伏せ。といっても隣の席だから待ち伏せなんて言葉通りの意味ではない。

確か今日から部活動見学が出来る。ソフトボール部だった私は高校野球に興味を持ち、放課後には野球部に行ってみようと思っている。彼女は部活に入るだろうか。入らなさそうだなと思わずおどおどしている彼女の顔を浮かべながら笑ってしまった。

その時、苗字さんが教室に入って来たらしい。「苗字さんおはよ」「お、お、おはよう」「あー、和むそれ」「え……へ?」「喜んでよ」「あ、ありが、とう……?」後ろで可笑しな会話が聞こえた。

タイミングを探そうと振り向けば、すぐそこに鞄を抱えた苗字さんが立っていた。びっくりしている。目が真ん丸く開かれて私を見ている。今だ!

「おはよう!!」
「!」

力みすぎた!タイミングばかりを気にして声量の事をすっかり忘れていた。後ろの方で先程苗字さんと話していた子が笑っていた。恥ずかしいなあ。

「し、篠岡さん……お、おはよう」

次は私が目を丸くする番だった。
鞄を胸元でぎゅうと抱えた苗字さんが、はにかむような笑顔を私に向けていた。照れているのか頬はうっすらと赤みがあり、大きな目は三日月の形。口角は緩やかに持ち上げらている。

(……ああ、そういう事か)

苗字さんの笑顔は柔らかかった。愛想笑いなんかではないと感じてしまうくらい、自然。もしかしたら話し掛けられて嬉しいのかもしれない。少し自惚れた考えだけど、そう思ってしまう。

「今日、天気良いね」

出てきた言葉は在り来たりだけど返答しにくいそれで、話題を間違えたと慌てた。もっとなんか、返答し易いやつが思い付かなかったのかな私……!

「うん。風、あったかかったし……すごく、眩しい」
「……へへ。私電車なんだけどさ、窓からの陽射しが眩しすぎて、目開けられなかった」
「込んで、ない?」
「早いやつだからあんまりいないかも」

電車、憧れる。なんて小さく呟いた彼女は鞄を抱えたまま隣の席に落ち着く。なんだ、意外と会話が続く。

「……天気良いからさ。お昼、屋上で一緒に食べない?」

照れた彼女は、微笑みながら、嬉しそうに頷いた。

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