私が頼まれそうだった試合のウグイス嬢を千代ちゃんが引き受けてくれた。しかもスコアの付け方をまだ覚えきれていない為、それも一緒にやってくれるらしい。アイちゃんまでも。

(千代ちゃん、様々……だ)

千代ちゃんがあんなに頑張っているのに私はただ黙ってベンチに居ていいのだろうか。……もうすぐ試合も始まる。私は皆に話終えた後の監督に声を掛けた。

「か、監督」
「んー?」
「私、千代ちゃんの所から見てても、いいですか……?」
「え、一緒にここで見ましょうよ」
「うぐっ」

視線だけ私にやっていたのにぐりんと顔ごと私に向けてきた監督に驚いたが、理由をはっきり言っておかないと監督も納得しなさそうだ。多分監督は私に間近で野球を体験して欲しいんだと思うけど……。

「す、スコアの、付け方……覚えた方が、いいと思って──っひい!」

監督の目を見ながら言うのは恐くてふらふらと目をさ迷わせていた時、突然両肩を掴まれた。この人の握力が凄まじい事なんて甘夏ジュースで体験している。

「かっ監とっ、痛い……」
「名前ちゃん!」
「はっ……い!?」

監督の目がキラキラしている。その輝きが私にも反映しているかのように眩しくて顔を背けると、皆が不思議そうに私達を注目していたので反対側に顔を背けた。

「一緒に、頑張りましょうね!」
「うえっ……は、はい」
「西広君は放送室の場所分かるかな?」
「知らないです」
「三橋君、じゃなくて水谷君は?」
「え?いや、知らないですけど……」
「だよね……じゃあ三星の人に聞いて行きなさい」
「え……!?」

まさかの事態に目眩がしてきた。三星の……知らない人に、場所を聞くなんて、私には大変すぎる。聞きやすそうなふわっとした、水谷君みたいな人が居たらいいけど……と三星側ベンチを見てみたがいろんな人と目が合った気がしてすぐに逸らしてしまった。

「あ、三星のピッチャーが来たわ」
「!」

振り返って見てみれば、先程までマウンドに立っていた人が怪訝そうに眉を寄せた顔でベンチに近寄って来ている。すると監督に行ってこいと体を押され、用意していなかった私は転けそうになりながらもふらふらとベンチを出た。

「どうかしました?」
「っ!」

後ろから励ますような声が数人分聞こえてきてますますやりにくい雰囲気になった気がして、そうなると後は早い。身体中が熱くなった。

ちらりと前を見てみれば、投手の人と目が合う。きゅっと引き上げられた目尻。心臓がどくどくと脈打つ音が妙に頭に響いてくる。

「マネージャー、ですよね?」
「っは」
「そうっす!ほら苗字、言え」
「あ、えっと……」

横から泉君の助けもあり何とか放送室の場所を聞くことが出来たが、やはり三星の投手の人を見ていると心臓の脈打ちは勿論息苦しい締め付けがあって、顔をしかめた。

(……ああ、思い出すからだ)

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