「荷物運んでー!」

三星学園に着くなり皆で荷物を運んでいく。野球初心者である俺の出番はないので、皆の負担にならないように出来る限り荷物を多く抱えて西浦側ベンチへ。

その時に一緒に来た苗字はジャグと大きな鞄を運んできたが、それは流石に大変だと見て思う。顔が真っ赤。

「苗字大丈夫?ほら、鞄貸して」
「あ、ありがとう、西広君……」

素早く荷物をベンチ端に下ろして苗字の荷物を取り上げると、彼女の顔がふにゃりと緩んだ。なんか危なっかしいんだよなとその筋力のない顔付きを見る。

「アクエリ作ろうか」
「あ、はいっ」

慌ててジャグの蓋をくるくると回して開けてくれて、鞄に入っていたペットボトルの水を中に入れる。そしてアクエリアスの粉末を出した時に氷がない事に気が付いたが、苗字が何処からともなく袋詰めされた氷を取り出してアクエリアスの海に落としていく。言動や態度に似合わず坦々と仕事をこなす姿には凄く感心する。

「篠岡は?」
「い、今来る、よ」

二人で振り返るとタイミングよく、荷物を持った篠岡が現れた。苗字は一目散に駆け出して荷物を半分渡してもらっている。意外と素早いよなあ、彼女。

マネージャー二人が揃った所でベンチ作りを始める。メットやバット等を準備する傍らタオルの確認。その間に皆もやって来てアップを始める。すると苗字がタオル片手に近寄って来た。

「どうしたの?」
「……っや、なんか、緊張、して」
「あはは、俺も」

そういえば苗字は野球を知らないまま強引にマネージャーにされてしまったから、余計に緊張しているだろう。多分彼女の事だから、自分がこの場に居ていいのかとか無駄な事も思っていそうだけど。

「あ、すいませんマネージャーの人ですか!?」
「っふあ!?」

取り敢えず落ち着いてとベンチに座らせたと同時に三星のユニホームを着た男が苗字に近付いた。勿論彼女は異様な驚きを見せていて、漫画か何かのように座っている体勢のまま少し跳ねたようだ。

ジャージ姿の女子がベンチに居るなんてマネージャーだとしか考えられないので、三星の人は苗字に向かって手招きをして出てくるよう促した。

「な、名前はなんですか!!」
「っえ!?」
「あっ違っ……何でもないです!」

(……なんか関係ない事聞かれてるよ苗字)

しかし彼女に頼む事なんてあるのか。あったとしてもソフトボール部出身の篠岡の方が頼れるぞなんて思って篠岡を呼ぼうと立ち上がったが、皆思う事は俺と同じらしい。

「篠岡あ!苗字んとこ行け!」
「!あ、分かった!」

アップ中の泉が気を利かせて篠岡を呼んだ。……皆、苗字の事分かっているなあ。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -