先に銭湯に向かってしまった皆を水谷君と一緒に追い、漸くお風呂だ。女湯は言わずもがな三人だけ。昨日と全く同じ順で私、千代ちゃん、監督で横に並んで着替え始めた。

一先ず最初に上を脱ごうとシャツに手を掛けた時、隣からの異様な視線に思わず脱ぐのを止めた。

「……ち、千代ちゃん?」

焦点が何処に向いているのかよく分からないが私の方を見ていたのでそう声を掛けると、はっと気が付いたように肩を揺らした。

「……名前ちゃんのブラ、ちょっと見せて欲しいなーって」
「!?」
「昨日着けてたの見たけど、ちょっとだけ!」

この合宿で初の女子特有の会話が今になって登場してしまい、監督に助けを求めて視線を向けたが、監督は既に居なかった。部屋には私と千代ちゃんだけ。私に手を伸ばしてくる千代ちゃんに反射的に体を捩らせた。

「い、いきなり、どうしたの……」

本当にいきなりだ。この三人でお風呂に入るのは合宿中ずっとで、その間にそういうふわふわした話題なんか全く姿を現さなかったのに……何故、今日。

修学旅行で体験した事があるが、女子って幾つになっても体の話はするんだなと思っていた時、千代ちゃんの手が私のシャツをお構い無しに捲り上げてきた。

「ふ、わっ!」
「私同じの持ってる!」
「……へ?」

胸元までたくし上げられたシャツに手を掛け下ろそうとするが千代ちゃんはさせてはくれず、捲り上げたまま後ろを向かせられた。女子同士だからあまり照れたりはしないものの、まじまじと見られると流石になんか……傷付くというか、比べるというか。

すると突然千代ちゃんの指がホックに引っ掛かって私は飛び上がってしまった。

「ちちちち千代ちゃん!!」
「……名前ちゃん、胸ある」
「!」

な、ない訳ない!だって私女子だもん!私はそう言いながら、離してくれた手に気が付いて素早くシャツを戻して千代ちゃんから数歩距離を取る。しかし千代ちゃんは先程と変わらない微妙な顔付きで私を見詰めるばかり。その視線で分かった、千代ちゃんは私の胸を見ている。

「しー……なの、名前ちゃん」
「!」

千代ちゃんがブラのホックに指を掛けた理由も分かった。私の胸のサイズが知りたかったらしい。

意外と大胆な行動をするよね千代ちゃんて。口をぱくぱくさせながら声にならない言葉を紡いでいると、千代ちゃんが突然手を伸ばしてきた。逃げる事も出来ず、彼女の右手は綺麗に私の左胸に宛がわれた。

「ちっ……!!」
「……しー……」
「も、もういい、からっ!」

ぶわっと吹き出てきた汗に比例してか私は無理矢理体を捩らせて胸元を隠す。いつもみたいにおどおどなんてしている状況ではない。防衛本能、とまではいかないけれど流石に恥ずかしすぎる。

「名前ちゃん、細いのに……」

右手はやんわりと何かを握った形のまま千代ちゃんは呟く。その手は止めて欲しいと思ったが、こういう話は女子だから出来るのだと言い聞かせて知らない振りを徹底した。

「お願い、もう一回だけ触らせて」
「無理です……!」

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