「皆、銭湯行くよ!」

明日は三橋の出身校である三星学園との試合。試合の為にといつもより練習を早めに切り上げ、ゆっくり身体を温めて備えろという事らしい。

「水谷準備出来たかー?」
「ちょい待って!……あれー、バスタオルない」

勿論バスタオル等は持参で数枚持ってきたのに、鞄にはそれらしき物が見当たらない。雨降った日もあったから替えのやつも洗っているのかも……。

「まずい、まずい!タオルどこ!?」

鞄をひっくり返して中身を全て確認するがやはりない。誰かから借りるのは絶対無理、ていうか絶対誰も貸したいなんて思わない。

こんな事してふと思うが、必ずこういう何か足りないとか忘れたとかいう奴いるよなー……まあそれは俺なんだけども。どうすっかなあ、これ。風呂は何がなんでも入りたい。

「み、ずたに、君?」

控えめに肩を叩かれて振り向くと、巾着型の大きな鞄を抱えている苗字が俺を見下ろして首を傾げていた。上からの照明で大きな影が差しているが、赤みを帯びた頬は相変わらずだ。

「ど、どうしたの……?」

皆外に出始めたというのにまだ部屋にいる俺を心配しているようだったので、頼みの綱という事で相談してみよう。

「いや、なんかバスタオルなくって」

告げるなり苗字はぱっと顔を青くしてしまった。ああ、洗って……。

「雨、とかで遅れ気味……だから、ない、かも……」
「この辺りって乾きにくいしなー」

やっぱり誰かから借りるしかないか。貸してくれそうな奴は……と周りの男達を浮かべてみた時、苗字が急に走り出した。

「っちょ、苗字!?」

勢いよく襖を開けて監督とマネージャーの部屋に駆け込み、苗字の物と思われる大きな鞄を漁り出した。

そんな彼女の姿を見て、かなり嫌な予感がしてくる。いや、嫌な訳じゃあないんだけど、ちょっと、あれ……あれだ。

すると俺の予感は的中。苗字はバスタオル一枚を持って近付いて来た。差し出されたそれは、小さな小花柄の刺繍をあしらった、可愛らしいバスタオル。

一気に体温が上がった気がした。

「え、と……苗字?」

一応そういう意味で問い掛けてみると、苗字は青くした顔のまま可愛らしいバスタオルを差し出してくる。

「まだ乾いてない、から……嫌じゃ、なかったら……私の、使ってください」
(マジか!)

すぐ目の前にあるふわふわしていそうなバスタオルからほのかに甘い香りが漂ってきて、俺は口元を手で隠す。にやけそう。

「や、でも、借りるのは悪いっていうか、その……」
「ま、まだこれ使ってない予備の、やつだから……」
「え」
「山、天気変わりやすい……から、新しく買ったやつ、持ってきておいた、の」
「あ、そっかあ」

じゃあ、何。このバスタオルはまだ苗字も使ってない新品なやつなのか。

なんだか残念な気もしたが、苗字が貸してくれるというのなら、御言葉に甘えて借りてしまおう。

「ありがとう、苗字」

真っ白な手から受け取ると途端笑顔を浮かべた苗字を見ながら俺もぎこちなく口角を上げる。

自分の手にある可愛らしいそれから立ち上る、花のような優しく甘い香りに、頭がくらくらし始めた。
(皆になんて言われるかなこれ……)

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