体幹作りも一通り頑張ってみたけど、角材でバランスを取るのは難しかった。
そして身体中がビリビリする中、合宿初めての夕飯だ。

「苗字、これ持ってく?」
「あ、じゃ、じゃあ、お願い、します」
「皿やるよー」

苗字さんが盛り付けをしている隣で、山菜の天ぷらが乗った皿を持つ水谷君。その隣でお皿を持つ栄口君。そして苗字さんの目が手元から二人に向けられた。

「あ、ありが、とう」

途端に二人は互いに顔を見合わせて、笑った。

「どういたしまして!」
「苗字も早く来なよー」
「う、うんっ」

そんな光景を俺はただ座って眺めているだけで手なんか出せやしない。栄口君達は凄く優しくて気が利いていい人で、率先して手伝いが出来るけど、俺は出来ない。どう切り出せばいいのか分からない。

苗字さんは何処か俺と似た雰囲気があると思うけど、やっぱり俺とは違う。おどおどしていても、根は栄口君みたいな人。優しいんだ。
(俺は、駄目だ)

「三橋、君」
「っっ!?」

振り返ってみるとそこには今の今まで俺の脳内を占めていた、苗字さんが居た。彼女の両手は何故か水の入ったコップを一つ包んている。
苗字さんはちらちらと俺を見上げながら、そのコップを突き出てきた。

「え、えっとあの!こっこれ……あの、水……」
「!」

(俺に水をくれるの!?な、なんでだ……?)
受け取るにも受け取れずにふらふらとコップの辺りで彷徨く俺の手を見てか、苗字さんはコップを差し出すのを止めて手を引っ込めてしまった。

悪い事をしてしまったかもしれないけど、この状態になった後に受け取ってもいいのだろうか……いやでも言いにくい……。

「み、三橋君、なんか……具合悪そうで…………大丈夫、ですか?」
「あっ」

思わず自分の顔を両手で隠した。俺は苗字さんに心配を掛けてしまったらしい。眠れていない事までは知らない筈だけど、具合悪そうだからと俺に水を用意してくれた!

顔を覆う手の指の隙間を開いて苗字さんを盗み見てみれば、やはり心配そうに俺を見詰めている。……このままでは駄目だろ。そろりと手を下ろすといきなり苗字さんが片手で俺の手を片方掴んだ。

「っわ……!」
「だ、大丈夫……!?頭、とか、痛い?」
「だっだだだだだいじょう、ぶっだから、あの、ててて、手っ……!」
「あ……っご、ごめんなさい!」

顔を真っ赤にしながら慌てて手を離した苗字さんとの間に微妙な沈黙が流れた。周りはガヤガヤと夕飯の仕度をしているのに、俺と彼女だけがそこから取り払われたような、不思議な感覚。

この空気に耐えられずどうしようかと小さな脳みそをぐるぐると働かせていると、真っ赤な苗字さんがくすくすと笑った。

(うわ……!)

そのくしゃりと緩ませた顔に釣られて俺も笑うと、苗字さんは更に笑い出す。口元に手をやり肩を震わせるその姿は、前にも見たことがある。

「大丈夫、そうかな……?」
「うっ、うん!」
「……水、飲む?」
「の、飲む、よ!水っ」
「うへへ……」
「ふひっ」



「……何、あれ」
「打ち解けたのか?」
「似てるしなァ」

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