「マネジ帰って来た!」 宿舎の裏にある山で山菜を調達して帰って数十分後、買い出しに行っていたマネージャーの二人も帰って来た。散々山を歩いた俺達もだが、あの二人も疲れただろう。両手一杯に物を抱えて死にそうな顔をしている。特に苗字の方が。 「苗字大丈夫ー?」 「だ、だいじょ、ぶ」 「すげー顔赤いよ」 「あっ赤く、ない、です」 苗字は赤くないと豪語したが無論赤い。頑張って来た感が満載で何だか笑えてくる。周りを見てみると皆笑いたそうに口を抑えていた。 その様子に気分を悪くしたのか苗字が口を少し尖らせたけれど、羞恥の方が大きかったらしく更に顔を赤らめていた。 「よし、じゃあ夕飯の準備するよ!」 突然現れた監督がマネージャー達の足下にある袋の中を見ながらそう言った。篠岡はテキパキと料理の道具を机に並べ、苗字は袋から材料を取り出し始める。女子って皆料理とか出来るものなのかなあ……。 「篠岡達って料理出来んの?」 「基本的な事は出来るから心配しないでねー」 「で、出来る、よ」 確かに包丁捌きは上手い。じゃがいもの皮剥けるなんて感心してしまう。ただそれは篠岡の手元だけを見ての事であり、にんじんを持つ苗字はなかなか包丁を扱おうとはしない。田島が聞いた。 「苗字はやんねーの?」 「え、いや……」 「ほんっとうに料理出来んのかー?」 苗字はコクコクと強く頷く。心なしか彼女の顔が少し赤いかもしれないと思っていると、言いにくそうにもごもごと小さく口を開いた。 「み、見られてると、あの……は、恥ずかしくて」 それを聞いて花井が納得したように声を洩らした。勉強や何だってそうだが、まじまじと見られているとやりにくい。苗字なんて上がりすぎて自分の手を切りそうだ。 「あ、じゃあ私と場所交代しよっか」 「!う、うん」 篠岡は作業を止めて苗字と場所を交代した。先程までは篠岡の背中があった所に、苗字の背中がある。必然的に目が合わなくなった状態にある為か、苗字の手がするすると軽く動き出した。田島が見ようと動くのを花井達が止めていて篠岡が笑っている。 「沖君そこのボウル取ってくれる?」 「あ、はい」 ぼんやりとしていたのがばれたのか監督にそう頼まれ慌てて取りに行くが、ボウルのある場所に行くと苗字を正面から見てしまう事になる。 案の定苗字が顔を真っ赤にして素早く手を止めた。包丁、危ない……。 |