同じクラスの苗字が見学に来た。最初見た時なんか知ってる顔だなと疑問に思っていたが、花井のフォローのお陰で辻褄が合った。そこで漸く名前も覚えた。

「よし、今日の練習は終わり!」

夕焼けの頃、監督の声に俺達はベンチ辺りに集まった。少しだけのミーティングは立ったまま済ませるので、居た堪れなかったのか、ベンチに座っていた苗字も慌てて立ち上がった。そんな苗字を監督が笑顔で見ている。

「ね、どうだった?」

ミーティングは後回しらしい。監督は苗字の方に身体を向け、目をキラキラ輝かせている。監督はマネージャーに欲しいのだろう。俺も入ってくれるなら入って欲しい。

三橋並みにおどおどしていて非常に見ていて苛々してくるが、見学だけな筈なのに球拾いやジャグの準備等を篠岡と頑張っていた所は、凄く好印象だった。気の利く奴らしい。

「えっ……と、あの、結構、見てて楽しかった、と……思います」

監督以外の俺達の視線に気が付いたのか苗字は一瞬顔を隠そうと腕を上げたが留めた。田島や水谷が「おお!」と声を上げた。そういえばこいつ等よく苗字に話し掛けていたな。煩くて面倒臭い奴等に囲まれて苗字も大変だっただろう。

「皆は片付けしておいてね!」

監督は志賀と篠岡を混ぜて苗字を連れ去ってグラウンドを出ていく。そこで周りは一気に騒がしくなった。

「苗字入るかなー?」
「モモカン相手だからなぁ、苗字の性格からして断れなくない?」
「顔青くしながら頷いてそう」

田島と水谷にプラスして栄口が笑う。青くするか涙目かのどちらかだよなと更に笑う田島。……苗字、お前馬鹿にされているんじゃないか。

「阿部は入って欲しいか?」

ベンチに腰掛けて防具を外していると花井が隣に座りながら聞いてきた。あいつだったら別にいいと思うけどと答えると、突然花井が吹き出した。

「……何笑ってんの」
「っ苗字さ、ああ見えてかなりすばしっこいっての思い出した」
「思い出し笑いする奴ってエロイんだって」
「は、はあ!?」

花井が声を荒げて弁解していたが全て聞き流し、一先ず防具をベンチに置いて立ち上がる。

「さっさと片付けとこうぜ」

取り敢えず監督達が帰って来るまでにとんぼ掛けは終わらせておいた方がいいだろう。

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