長い授業がやっと終わり、いつもの通り第二グラウンドを目指していた途中、水谷と篠岡らしき後ろ姿を見付けた。そしてその二人の間には、かなり小柄な黒髪の女子。すぐにピンときて、俺は三人に向かって走り出した。

「みーずたにー!」

叫べば水谷が振り返って大きく手を振ってくれた。篠岡も振ってくれていて俺は篠岡の名前も呼ぶ。おろおろしている真ん中の女子の名前も。

「苗字ーっ!」

すると両隣の二人が苗字を見て笑った。なんでなのか知りたくて三人の所に駆け寄れば、苗字は顔を真っ赤にしている。目の前に来た俺に気が付くなり腕で自分の顔を隠した。

「照れてるんだよ」
「嬉しかったんじゃねー?」

笑う二人の言葉に苗字の足が一歩後退したがすぐに篠岡に捕まれていた。多分逃げようとしたんだろう。

……にしても、部活始まるのに何していたんだろうか。水谷はスポーツバッグ持ってて同じく篠岡も。二人はまだ制服だがいつもの部活状態で、そこに鞄を持つ苗字が間に居る。

「なんで苗字がいるんだ?」

そう問い掛けると篠岡が何処と無く嬉しそうにニコニコしながら答えてくれた。

「野球部の見学!」
「マジで!?」

ウソ、苗字が野球部見学すんの?マネージャー誘ったのにやらないって拒否していたのに、え、マジで?

マジでとしか言えない俺の目に、怪訝そうに眉根を寄せた水谷が入り込んできた。

「てか田島、苗字と知り合いだったのかよ?」
「篠岡と居るとこで何回か会ったぜ!な、苗字」
「う、うん」
「顔あっけーぞ!」
「!」

再び顔を隠す体勢になった苗字が可笑しくて腹を抱えて笑う。俺が言うのもあれだけど、こいつ意外に単純な性格だと思う。

「知り合いとか、面白味ねー……紹介したかったし」
「三橋と泉も会ってるからな」
「え、苗字、他に野球部知り合いいたりする? そいつらと7組は抜きで」

水谷が苗字の目線に合わせるように少し屈むが相手は顔を隠していたので、苗字の顔が見えるように水谷はあいつの腕を少しだけ引っ張った。苗字のトマトのような顔が露になった。

「うわあ、真っ赤」

苗字の顔を覗き込みながら笑う水谷。言われて更に赤みが増した気がする頬のまま、苗字は頷く。なんで頷いたんだと不思議に思ったが、水谷の質問内容に対しての事だと気が付いた。

「や、野球部、知り合い……いるよ」
「マジかよ」
「栄口君……とか、あと、西広君、かな」
「なんで西広まで?」
「図書室っ、で」
「ほぼ全員……」

落胆する水谷を見て確かにほぼ全員だなと思った。知らないのは巣山と沖と監督達くらいか。やっぱり野球部の奴といると野球部の繋がりが増えるのか? 見る限り一番篠岡と仲良いみたいだし、水谷もそうっぽいし。

篠岡に手伝われながら手で扇ぐ苗字の顔は大分赤みがなくなっていた。……そうか、苗字が野球部の見学に来るのか。

「なんか変な感じだなー」

呟くと三人の視線が向けられた。

「たまたま知り合った奴とまた機会あるって。運命だよなー!」
「っひ!」
「田島君、またそれ!?」
「え、田島またなの!?」

小さくなっている苗字に抱き着けば周りから非難の声を浴びせられた。いや、なんか苗字ってふにゃふにゃしてるから気持ち良いんだよなあ。女ってこんなんなのか。再び顔を赤くしている苗字に笑うと、水谷から容赦なく蹴られた。

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